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「六道先生の原稿は順調に遅れています 三」峰守ひろかず(富士見L文庫)

六道先生の原稿は順調に遅れています 三 (富士見L文庫)
六道先生の原稿は順調に遅れています 三 (富士見L文庫)

文芸編集者の滝川詠見は、作家にして妖怪の六道そう馬を担当中。新刊発売に文芸賞受賞と、場数を踏んだ二人には、新作の立ち上げもお手のもの――ということもなく、相変わらず原稿は遅れていた。
そんな折、六道先生の書いた昭和回顧エッセイが評判に。それなら先生の半生を描いた自伝小説も面白いのでは、と新作企画が立ち上がる。さっそく縁の地へ取材に向かう詠見たちだったが、やがて六道先生の記憶にない“六道そう馬”の足跡が見つかって……?
編集女子と妖怪作家の、怪奇×お仕事小説、集大成!?

最終巻。



そこまで行って編集者と担当作家だからと言いますか。ああ、もどかしいもどかしい。
いやね、峰守先生と言えば、妖怪への造詣の深さと軽快な文章が特徴の作家さんなのだけど、そこにもう一つ、読んでいると微笑ましく応援したくなる爽やかなイチャラブも売りだと思っているので、問題のシーンのやや強引な回避に、違和感と残念さを感じているのですよ。確かに詠見さんは恋愛ごとに疎そうなキャラではあるけれど。
それでも六道先生のラストの一言に身体の変化を合せて考えれば、そっち方面に解釈してもおかしくない含みを持たせてくれてあるのが救いか。(六道先生が某作家仲間に「どうアプローチしても詠見さんが気付いてくれないんです」と相談を持ちかけるところまで妄想できた。)
と、いきなりクライマックスから語ってしまったが、
話としては、六道先生が自伝的小説を書き始めたら知らない自分が出てきたり、詠見は全くの別業種に誘われたりと、自らの仕事に今一度向き合うというテーマ。
今までのイメージ通りに、二人とも自分の仕事に対する向き合い方が真摯なのが印象的。信念やプライドまでの重いものではないけれど、こうやって自分の仕事に真面目に向き合えるのはちょっと羨ましい。
思いの外関係性に変化がなかったけれど、全編を通して正義の心と優しさに溢れた妖怪作家と女性編集のコンビは読んでいて気持ちよく、大好きなシリーズだった。終わってしまうのが残念だ。


ところでこの巻、六道先生の原稿が全然遅れていないように見受けられるのですがそれは……w