いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「時給三〇〇円の死神」藤まる(双葉文庫)

「それじゃあキミを死神として採用するね」ある日、高校生の佐倉真司は同級生の花森雪希から「死神」のアルバイトに誘われる。曰く「死神」の仕事とは、成仏できずにこの世に残る「死者」の未練を晴らし、あの世へと見送ることらしい。あまりに現実離れした話に、不審を抱く佐倉。しかし、「半年間勤め上げれば、どんな願いも叶えてもらえる」という話などを聞き、疑いながらも死神のアルバイトを始めることとなり――。死者たちが抱える、切なすぎる未練、願いに涙が止まらない、感動の物語。


現世への未練で成仏できずにいる「死者」と一緒に未練を探しそれ晴らさせる、成仏するためのサポートをする「死神」のアルバイトをすることになった少年の物語。

泣きました。
幽霊が未練を晴らして切なくも晴れやかに成仏する、死神が出てくる感動系の話では大変よくあるタイプなんだろうなと思っていたら大間違い。そんな生易しい話ではなかった。
そもそも仕事が成功しない。それもそのはず、死者の未練の質が、不幸の度合いが極めて重い。他人が助言や助力をしてサラっと解決できるようなものは出てこない。「恨めしや」ではないけれど、死んでも現世に留まるほどの未練は、怒りや恨みなど大きなエネルギーを伴っているのが、ファンタジーなのにある意味リアルだ。なので、暴力的で攻撃的なえげつない表現も出てくるし、主人公は失敗と後悔ばかりで凹みまくっている。
でも、だからこそ、それでももがく主人公の姿に、人生どん底な主人公が生きる希望を持てたことに、説得力が生まれているんだと思う。エピローグで、素直に彼の幸せを願えるのが嬉しい。
デビュー作から会話劇の軽妙さとは裏腹に、「死」が物語の大きなウエイトを占める作風だと思っていたけれど、改めて死に対して価値観と、残された者の人生観にシビアな考え方を持っていることを感じさせる作品だった。