いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「ネガレアリテの悪魔 贋者たちの輪舞曲」大塚 已愛(角川文庫)

19世紀末、ロンドンの画廊で展示されたルーベンス未発表の「真作」。エディスはその絵に目を奪われるが、見知らぬ美貌の青年は「贋作」と断言した。数日後に画廊を再訪したエディスは、突如色彩が反転した世界に閉じ込められ、絵の中から現れた異形の怪物に襲われる。間一髪のところを救ってくれたのは、サミュエルと名乗った先日の青年だった。贋作に宿りし悪魔を祓え――少女×人外の麗しきコンビが謎に挑む冒険活劇、開幕!

第4回角川キャラクター小説大賞<大賞>受賞作


なんだこれは……
形容のし難いごった煮小説が出てきた。
舞台は19世紀末ロンドン。近世ヨーロッパの絵画がメインとなる話で、ゴシックホラー調の雰囲気と教養を感じさせるキャラクターたちの会話で、文章はお堅い文学風。なのに、やっていることは幽世で化け物退治で、オートマタに妖精の目に吸血鬼にとエンタメ小説の要素が次々に出てくる。しかも、近世ヨーロッパの絵画に日本刀、キリスト教のイギリスで万物に神が宿る日本的な神の考え方、ロンドンっ子が日本の歴史小説のような和風な例えなど、本来相容れないものをわざと組み合わせて作られている。
これだけの要素を取り入れて、物語が崩壊していないバランス感覚は素晴らしい。……とは思うのだが、設定語りが濃すぎて、肝心のキャラクターとストーリーが薄くなってしまっているような気がしてならない。
それでも、設定のおもちゃ箱のような作品で次に何が出てくるのか分からない楽しさがあった。キャラクター小説大賞作ながら、独特な世界観を楽しむ作品だったように思う。