いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「ふしぎ荘で夕食を ~幽霊、ときどき、カレーライス~」村谷由香里(メディアワークス文庫)

『最後に食べるものが、あなたの作るカレーでうれしい』
家賃四万五千円、一部屋四畳半で夕食付き。平凡な大学二年生の俺・七瀬浩太が暮らす深山荘は、オンボロな外観で心霊スポットとして有名だ。
暗闇に浮かぶ人影や怪しい視線、謎の紙人形……次々と不思議な現象が起こるけれど、愉快な住人たちは全く気にしない。
――だって彼らは、悲しい過去を持つ幽霊ですら、温かく食卓に迎え入れてしまうのだから。これは、俺たちが一生忘れない“最後の夕食”の物語だ。

第25回電撃小説大賞メディアワークス文庫賞>受賞作


大学生たちの少し不思議付きおんぼろシェアハウス〈深山荘〉の物語。食事付きということもあり、シェアハウスというよりは寮母さんが同年代な学生寮のイメージ。
他人との距離感が近い作家さんだな、というのが率直な感想。
馴れ馴れしい性格は主人公の個性かと思ったら、他の登場人物もみんながそうなので、著者としてはこの距離感が普通の感覚なんだろう、たぶん。まあ、ボロくて安いとはいえ、男女混合のシェアハウスに入ろうという時点で、潔癖だったり、人付き合いが極端に苦手だったりはしないか。
彼らのような、人の懐にすっと入って相手を初めから好意的にみる人への接し方は、自分には無い感覚なので、人情系の話題では感動よりも戸惑いの方が強かった。
でも、その他人とは思えない彼らの仲の良さがこの作品最大の長所を生んでいる。それが深山荘の食事風景。
寮母さんポディションの夏乃子さんが作る素朴な家庭料理と、みんなで和気あいあいと食べる温かな食卓の相乗効果で胃袋を強烈に刺激してくる。
毎回主人公がべた褒めすることもあり、料理そのものも美味しそうに感じるのもそうだけど、何と言っても食卓の雰囲気。誰かと食べる楽しい食事というのは、空腹と同等の最強のスパイスだ。
人間ドラマは微妙に合わなかったけれど、飯テロ小説としては久々のヒット作品。