いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「君が今夜もごはんを食べますように」山本瑤(集英社オレンジ文庫)

家具職人をめざし、修業を積んでいた倉木相馬。良い家具を作るには人間について理解していなくてはならないと考える師匠に、家具職人以外の仕事を体験するよう言われ、女友達の営む茶房で働くことに。もともと料理が得意だった相馬は、茶房での仕事に喜びを見出し始めて…。優しすぎる男と壊れかかった女たち。心と身体に愛の滋養、じんと沁みる金沢ごはん物語…!


地元東京から離れた地・金沢で暮らす家具職人見習い兼料理人の主人公・相馬。母子家庭で育ち、家族の形が分からない彼が、自分と同様にどこかに傷がある、またはどこかが壊れてしまった人たちと触れ合いながら、家具職人として足りないものを探していく。
金沢の人の気質と方言、相馬の作る素朴な料理に温かさを感じると同時に、彼や出会う人たちの人生のままならなさに物悲しくなる。そんな話だった。
彼自身がそういう人に惹かれてしまう性分なんだろうけど、精神的に不安定な彼女にしても、出会う高齢の女性たちにしても、傍から見ているとわざわざ苦労を背負っているように思えて、遣る瀬無い気分になる。
どちらかと言えば悲しさが勝つ読後感なのは、旅立ちのラストだったからだろう。
小梅と一緒になれば彼が焦がれる「温かい食卓」が手に入りそうなのに。でも、こういうタイプの人は満たされてしまったらダメなのかもしれないな。
登場人物たちの幸せを願わずにはいられない、そんな話だった。