いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「シュレディンガーの猫探し」小林一星(ガガガ文庫)

探偵は“真実”を求め、魔女は“神秘”を求める。そして時に、人には解かれたくない謎があり、秘密にしておきたい真実がある――。とある事件をきっかけに訪れた洋館で、僕は一人の魔女に出会う。「解かれない謎は神秘と呼ばれる。謎は謎のまま――シュレディンガーの密室さ」魔女・焔螺は謎こそ神秘と考え、この世を神秘で埋め尽くしたいのだと言う。事件を解決する「名探偵」と、謎を謎のままにしておきたい「迷宮落としの魔女」との、ミステリーとは似て非なる知恵比べが始まる! 小学館ライトノベル大賞審査員特別賞受賞作。


「謎は謎のままが美しい」「明かされない方が良い真実もある」という信念の下、事件の真相を解き明かそうとする探偵の妨害をする魔女を自称する女性と探偵嫌いの少年の物語。

謎を解くのではなくわざと説かせないようにする、通常とは真逆の作品コンセプトがまず新鮮。
それでいて、的確に探偵の邪魔をするためには探偵より早く事件の真相(もしくは可能性)に辿り着かねばならず、その為に探偵と魔女の対決はどれもスピーディ。しかも魔女というミステリアスな存在と裏腹に、話は常にロジカルな推論が展開されていく。
そんな驚きと裏切りが連続のギャップの塊のような作品で、事件に入る前の言葉遊びの要素の濃い人物紹介も面白く、とても楽しい読書時間だった。
……終盤、第三章のあるシーンがくるまでは。
本物の神秘は本当にあるのか、要するにこの世界にファンタジー要素が有るのか無いのかが曖昧だから話が成り立っていたのに、そこでE.T.しちゃったら、それまでの全部が台無しになると思うのだが。
魔法の存在が有りなら、それまでの事件で繰り広げられた探偵たちの推理が無意味なものになる。全て「魔法」で片付けられるのだから。ラストで明かされた魔女の正体も、嘘か真か分からないならミステリアスで綺麗なオチだったが、これだとただの次回への伏線だ。それは魔女的に美しくないだろう。
謎は謎のままで――という話をしていたのに、魔法をはっきり有りにしてしまったその一点だけがどうしても納得がいかない。8割9割面白かったのに、突然冷や水を浴びせられた気分。