いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「シュレーディンガーの少女」松崎有理(創元SF文庫)

すべての65歳に例外なく、プログラムされた死が訪れる世界。肥満者たちをテレビスタジオに集め、公開デスゲームを開催する健康至上主義社会。あらゆる数学を市民に禁じ、違反者を捕らえては刑に処している王国。はたまた日々の食卓から、秋刀魚が消え失せてしまった未来──様々なディストピア世界でたくましく生きのびる女性たちを描いた、コミカルでちょっぴりダークな短編集。


現代社会が抱える問題がもっと顕著になったディストピアを生きる人々の生活を描く、全六編のSF短編集。
未来の小学生が宿題の自由研究のために、50年前は食べられていたらしい秋刀魚の塩焼きを再現しようとする『秋刀魚、苦いかしょっぱいか』(四編目)がとても面白かった。
3Dフードプリンタや遠距離での味覚や嗅覚の共有など未来の設備。お婆ちゃんや色々な職業の人たちに取材し、行き詰ったら昔の短歌を調べと、自由研究という枠内で小さな冒険をしている小5の少女の姿。どちらでもワクワクする。
ただ、全六編中楽しく読めたのはこれだけ。あとはどうにも楽しめなかった。
基本的に例えが極端すぎる。
問題点を分かりやすく肥大化させてそれをブラックジョークにして笑い飛ばすのがコンセプトだと思うのだけど、ジョークがジョークになり切れていないというか、ジョークにするテーマのチョイスが笑って読めるレベルを超えているというか。現代の問題を取り扱うなら、いくらSFでもリアリティを感じるレベルに抑えないと笑いも共感も起こりにくい。それにやり過ぎは単純に不快だ。
リアリティという面ではもう一つ。
SFにしろ異世界ファンタジーにしろ、空想の世界だからこそ独自の世界観に必然性というか不自然のなさが必要だと思う。例えば三編目の『異世界数学』の世界は、国民に数学を禁じているのに貨幣経済が成り立っているのが不自然でモヤっとする。
要するに作者と感性が合わなかったんだろう。申し訳ない。
あと、これを読んで改めて思ったのは『キノの旅』って本当に絶妙なバランスで書かれているんだな、と。