いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「新説 狼と香辛料 狼と羊皮紙 IX」支倉凍砂(電撃文庫)

狼の化身ルティアが抱えていた心の呪縛を解き、教科書を巡るアケントでの争いに終止符を打たせたコル。目的であった聖典印刷の目処も立ち、いざ公会議に向け、コルたちは準備を始めるのだった。
全世界の聖職者が集う公会議、来るべき論戦を優位に進めるべく、一人でも多くの味方集めが重要となる。だが、その出鼻をくじくように“薄明の枢機卿”の名を騙る偽者が現れたとの報せが届く。
聖堂都市エシュタットの圧政に立ち向かう“薄明の枢機卿”の名の許に建てられた希望の街オルブルク。かねてからの謙遜が仇となり、自分が本人であると証明できないコルは決断を迫られる――。


紙を調達しに行った大学都市での騒動が一段落したのも束の間、今度は薄明の枢機卿の名を騙るニセモノの噂が舞い込んでくる。真相を確かめるべく現地に向かうコルたちに待ち受けるものとは?なシリーズ第9巻。
読み始める時は前巻をざっとおさらいすること推奨。11か月ぶりの新刊というのもあって、前回から出てきた新規のキャラクターの名前を全然覚えていなくて、誰が誰だか分からなくなった人がここにw
それはともかくニセモノ騒動。
写真が出回るわけでもなく、文書の類も偽造を疑われたら証明しようがない時代で、自分が自分であることを証明するのは難しい。その苦悩の苦労が偲ばれる話。そこの解決に注力していたこともあり、いつものような商人たちの頭脳戦の要素はちょっと薄め。
しかし、シリーズとしては大きな節目の話だった。
それは地道な草の根活動を逆手に取られた詐欺行為を垣間見て、コルが表舞台へ立つことを決意したこと。
……なんだけど、コルが活躍したかというと微妙なところ。
表舞台に立つ変身プロデュースの発案はミューリだし、逆転の救出作戦もほぼミューリの策。敵の裏を取ってきたのはエーブやル・ロワの商人たち。先回りして人を呼んだり、ミューリが動きやすいように根回ししたりの裏方作業は流石の卒のなさだったけど、周りから求められている活躍、ミューリが見たい活躍はそこじゃないのは明らか。
でも、この裏方でこそ活きるラノベの主人公らしくないのがコルらしさな気がする。
来たる公会議で、慣れない御輿としての役割を全うできるか不安になる一方で、ちゃんと出来たらそれはそれでコルらしさが消えてしまう気がして複雑な心境になる、そんな話だった。カッコイイ兄さまへの道は険しい。