いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「獄門撫子此処ニ在リ」伏見七尾(ガガガ文庫)

獄門撫子。化物すら畏怖する凶家『獄門家』の末裔。化物を喰らうさだめの娘。それなのに……自らを怖れぬ胡乱な女、無花果アマナとの出逢いが撫子を変える。花天井に潜むもの。箱詰人身御供。あざなえる呪い紐。人を取り替えるけもの。次々と怪異に挑むうち、二人は目を背けていた己そのものと対峙して――「あなたさえいなければ、わたしは鬼でいられたのに」鬼の身体にヒトの心を宿した少女と、ヒトの身に異形の魂を抱えた女の縁が、血の物語の封を切る。うつくしくもおそろしい、少女鬼譚。

第17回小学館ライトノベル大賞《大賞》作品


鬼の血をひく一門に生まれた少女・獄門撫子が、怪異を集める謎多き女性・無花果アマナと出会ったことから運命の歯車が動き始める。京都を舞台にした現代怪異アクション。

これ、本当に新人賞作品なの? とんでもない出来なんだけど。
怪異との戦闘はどれも血生臭く、血が苦手な自分としては好みとは外れるのだけど、それでも読ませる迫力のあるアクションシーンは圧巻。そもそもとして血が苦手なことを自覚させるほど、濃く血の匂いを感じさせる表現力は新人賞のそれではない。
でも、それ以上に良いのがしっかり“人間”を描いていること。なのでキャラクターがとても魅力的。
人間と化物の狭間に生きる少女と女性が、それぞれに存在も情緒も不安定な感情を抱きながら、お互いに戸惑いながらも惹かれあっていく二人。一緒に居ないと何となく落ち着かない、寂しいと感じ始める様子。どうでもいい相手のはずなのに助けるために自分を犠牲にしてしまう、自分の事なのにままならない感情。そんな大事な存在になっていく過程が丁寧に、自分の心の内も外も揺れ動いている様子が繊細に描かれている。カテゴライズするならば百合作品なのだけど、もっと深く魂が共鳴し合っていくような二人の関係性が尊い
今年の小学館ライトノベル大賞作品は、魂を揺さぶられる、全盛期のライトノベルを思い出させてくれる傑作だった。ガガガ文庫は時々こういうの出してくるから目が離せない。