いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「紙屋ふじさき記念館 あたらしい場所」ほしおさなえ(角川文庫)

大学卒業後、晴れて藤崎産業に入社した百花は記念館準備室に配属され、川越での新記念館開館に向けたプロジェクトに携わることに。どのような場所にすれば、人々に和紙の魅力を伝え、活用してもらうきっかけになれるのか。時にプレッシャーを感じながらも一成や新入社員の同期たちと話し合いを重ね、準備を進めていく。そんな中、百花の亡き父の作品『東京散歩』復刊の動きが現れて? 紙がつなぐ絆の物語、感動の完結巻!


コロナ禍で大学に行かないまま卒業し、藤崎産業での社会人生活がスタートした百花。そんな新社会人の百花が新記念館開館準備に奮闘するシリーズ最終巻。

おお、百花ちゃん、こんなに立派になって。
あの気弱で引っ込み思案だった少女が、優秀な同僚たちの中でも委縮しないで自分の意見を言えて、自分の役割を全うしている姿にジーンと来てしまった。日本橋の旧記念館でのアルバイトで培ってきた経験が、仕事をすることで広がっていった視野が、築いてきた人脈が、この堂々とした姿に繋がっているのだと思うと感慨も一入。
仕事に対する姿勢が真面目過ぎて、大きな挫折を経験した時ぽっきり折れてしまいそうな不安は感じるけれど、多くの周りの大人に認められて愛されてきた彼女なら、救いの手がいっぱい差し出されるから大丈夫かな。
大学のサークルの仲間たちが集まるエピローグ前のイベントに、これまで一緒に仕事をしてきた大人たちに声を掛けられるエピローグの新記念館開館式と、彼女の愛され具合がわかる最終巻に相応しいフィナーレがその証拠。
好きなことは手作り工作な内向的な女子大生が、初めは不安で嫌で仕方がなかったアルバイトをきっかけに自分の居場所を見つけ、多くの人たちと出会って縁を結び、自分のやりたいことを見つけて大きく羽ばたいていった物語。
それと和紙の現状や紙の業界の今を書きながら、刊行途中に起きたコロナ禍をそのまま取り入れて、今だからこそ書けた、今だからこそ読んでほしいシリーズになった。
いい物語でした。