いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「性悪天才幼馴染との勝負に負けて初体験を全部奪われる話」犬甘あんず(角川スニーカー文庫)

性悪天才幼馴染との勝負に負けて初体験を全部奪われる話 (角川スニーカー文庫)

吉沢わかばの幼馴染、梅園小牧は完璧である。品行方正で才色兼備な優等生……というのは表向きで、人を見下す性悪女だ。
私はそんな小牧に勝ちたいあまり、大事なものを賭けてでも勝負を取り付け――結果は私の負け。そして、「わかばが、自分の意思で、私にキスをして」奪われたのはファーストキス。尊厳を取り戻すためにまた勝負を挑むものの、小牧が勝ったら私の大事なものを一つ奪うという条件をつけられ――。
デートに添い寝、初恋の人に言いたかった"好き"という言葉まで。全てを奪っていく小牧が大嫌いなはずなのに。奪われて、ぽっかりと空いた穴を埋めるように流れ込む、この感情はなんだろう?

第28回スニーカー大賞《金賞》受賞作


自身は凡人だと言うけれど勉強も運動も平均以上、ただやや幼児体型な主人公・吉沢わかば。その幼馴染みで才色兼備で文武両道な完璧優等生の梅園小牧。二人の少女が織りなす青春百合小説。
わかばが好きすぎるがゆえに意地悪なことをする小牧の歪んだ愛を、嫌いだと言いながら受け入れるわかば。嫌なのになぜか突き放せない、むしろ時には優しくしてしまう。自分の感情がままならないわかばの心の葛藤を描いた作品。
学生時代の鬱屈した想いや歪んでしまった愛のカタチ、自分では制御できないちぐはぐな感情など、思春期を感じる青春小説としてはなかなか読ませる作品だった。
ただ、物語に起伏がない。二人の関係性に変化がなければ、わかばの心境にも特に変化がないのでやや冗長。少女たちの変化や成長が感じられなかったのは青春小説としてはマイナス点。
あと“百合”は、冒頭からキスシーンで「おっ」と思わせる期待させてくれるが、残念ながらそこがピーク。
その後もキスはいっぱいしているのに、主にされている側の主人公のわかばに感情が乗っていないので背徳感や艶のようなものはほとんど感じない。また、小牧の百合的悪戯が最初から最後までやっていることがほとんど同じで、冒頭以上のインパクトは全くない。
これが金賞か……個人的には青春小説としては佳作、百合作品として落選という評価。