いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のみんなの話」武田綾乃(宝島社文庫)

響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のみんなの話 (宝島社文庫)

北宇治高校吹奏楽部の活躍を描く、人気青春エンタメシリーズの最新作。
卒業旅行の行き先を相談していた久美子たちのもとに、ひょんなことから沖縄での演奏会の話が舞い込み……!? そのほか、男子部員たちの内緒の恋バナ、大学生になった夏紀、優子、希美、みぞれの様子、次期部長を決める会議など、北宇治吹部の日常とその後を描いた短編集。奏と真由の水面下でのバトルも必読!


久美子が三年時の久美子以外の視点のエピソードや大会後のエピソードを描く恐らくシリーズのフィナーレを飾るであろう短編集。
まずは何と言っても出てくれたことに感謝を。
本編最終巻が5年前。直後に京アニのあの事件が起きて、この恒例の短編集が出せるような状況じゃなくなってしまったので、完全に諦めていた。それがアニメは久美子の最終学年までちゃんと出来て、同時期に最後の短編集も出てくれた。なんの因果か、そのアニメが物議を醸しだしているタイミングでの出版になってしまったけれど(苦笑)
やっぱり真由ちゃんそんなに悪い娘じゃないよね。若干空気読めてない感じはあるけど、アニメのように人を執拗に口撃するタイプではない。それが計算であろうと天然であろうと。アニメは尖がらせ過ぎたんだ……。
アニメの話はこれくらいにして、この本の話をしよう。短編11話+間奏4話と話数が多く、短い話が多いがいろいろな視点があって嬉しい。
前半で好きなのが去年卒業の仲良し4人組の夏休み小旅行の様子を描く「五 ドライブ」。
「君らホンマ仲良いな!」と思わず顔がほころぶ。久美子たち低音3名+麗奈も仲はいいけど、この空気感は出せそうにない。みぞれが運転!? 超絶不安だが実は案外上手かったり?
後半で好きなのは、部長・副部長・ドラムメジャーがバトンタッチする「九 新・幹部役員会議」「十 旧・幹部役員会議」
久美子たちもこうやってバトンを渡されたんだと感慨に耽ったり、人選に納得しながら二年生の層の薄さに不安を感じたり、そうしてみると久美子たちの世代は粒揃いだったなあと思ったり、色々想いを巡らせてしまう。
そしてラストは卒業旅行兼最後の演奏会になる「十一 未来への約束」。部長久美子の集大成。
久美子はこの1年本当に「部長」だったんだなって。麗奈や葉月たち一緒に頑張ってきた同級生への想いよりも、後輩たちへの心配の方が圧倒的に強くて、立派になった感動と最後ぐらい自分の思い出に浸ってもいいのにという寂しさが同居する。先輩たちの諸々の問題に毒舌をぶっこんでいたころが懐かしい。
一人の少女が吹奏楽にかけた青春を入学から卒業までを余すところなく追える青春エンタメ小説の傑作。終わってしまうのが本当に寂しい。他校生、上級生のスピンオフがあったのだから、下級生のスピンオフがあってもいいんですよ。