いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「さよならの言い方なんて知らない。9」河野裕(新潮文庫nex)

さよならの言い方なんて知らない。9 (新潮文庫 こ 60-19)

賢者の円卓。通称「PORT」の頂点に君臨した男、ユーリイ。架見崎で最強のチームを率いた彼は、常に「王」だった。優雅で、強く、美しく。しかしまったく本心を見せない、謎の王様。ゲームの勝者に最も近いとされた彼は、心の奥底では何を求めていたのか。ユーリイの「生きる意味」とは? その過去を知るタリホーと対峙するとき、王の真実が明らかになる。孤独と自覚の青春劇、第9弾。


物語の終盤になって一冊丸ごと引き篭もっていただけの主人公がいるらしいですよ。
大きな戦いを経て選挙で平和的な決着を付けようという、能力バトルで争う架見崎らしくない話の流れになったにもかかわらず、最もバトルが苦手で最も架見崎にふさわしくない主人公が、バトルがなくなったら逆に出てこなくなるという。実に香屋らしい天邪鬼ぶり。
そんなずっと考え込んでいただけだった香屋に代わって主役だったのがユーリィ。
今回はヘビを宿したユーリィが死に場所と死ぬ理由を探す話。
最強チームのトップとして、得体のしれない強ボスとして、ずっと重要な人物だったのは間違いないけれど、ここに来てこんなに掘り下げられる登場人物になろうとは。
天才ゆえの苦悩で自分自身と生きることに興味がない彼は、何が何でも人が生きることに固執する香屋とは対極の存在として表現されているように感じた。
その生き様は特殊過ぎて共感は出来なかったけれど、彼の生い立ちと人間関係を知った後に引き起こしされた戦いには色々と心動かされた。愛憎があべこべな敵と味方、歪んだ愛情と歪な信頼が複雑に絡み合う、読んでいて悲しく切なくなる、でもどこか美しいと思えてしまう戦いだった。
次回、多くの時間と多くのものを犠牲にしてまで引き篭もって考え続け、ついに見つけたらしい香屋の答えが明らかに。引きに登場した人物からすると外(現実)と中(架見崎)からの同時攻略(侵攻?)になりそう? 香屋ならどこの世界線の自分でも「自分ならこうする」を信じて疑わないんだろうなあ。やっぱり彼は化け物だ。