いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「夏に溺れる」青葉寄(ガガガ文庫)

夏に溺れる (ガガガ文庫)

「母さんを殺してきた」――夜凪凛が、元クラスメイトの夏乃光から衝撃的な告白を受けたのは、夏休み明けの始業式のことだった。成績優秀で眉目秀麗、学校内ヒエラルキーの頂点にいながら自殺願望を持つる光。友人関係に悩み不登校になった過去を持つ凛は、彼に誘われるまま逃避行に出る。そのさなか、光は彼女にあるゲームを提案する。それは、八月が終わるまでの七日間、一日一人ずつ交互に殺したい人間を殺していくというものだった……。行き場を失くした二人は凶器と化す。第18回小学館ライトノベル大賞・大賞受賞作。


人の機微が分からず友人関係に悩む少女と自殺願望をもつ少年の逃避行。
一貫して訴えていた「空気読めってなんだよ、口で言ってくれなきゃわからない」という主張には諸手を挙げて賛同したいところではあるけれど、その主張方法が尖がりすぎていて素直に肯定できない。人の命が軽すぎるのと、バッドエンドの余韻を残すには中途半端なラストの所為か、雰囲気の重さの割には言葉が軽い。ゲテモノ感が先にきて訴えかけてくるものは感じなかった。
作中で好きなものを語っているメイン二人の会話からするに、鬱屈している排他的な少年少女で、退廃的でダークな雰囲気なボーイミーツガールを書きたかったのだろう。その雰囲気はあったのだけど、ここまで特殊だとちょっと。感じたのはボーイミーツガールの単語で想像する柑橘系の爽やかさではなく、嘔吐た時に感じる胃酸の酸っぱさ。
ガガガ文庫らしい尖った作品ではあった。ただ、完成度や文章力が高いわけではなく、強い個性や作風を感じられるわけでもなく、殺人にインパクトがあっただけだったような気がする。好きな人は好きなんだろうけど、これはかなり特殊な趣味の人の好みにしか刺さらないのではなかろうか。これが大賞なのは納得しかねる。

「エモい」という単語にダサいという感覚が若者にもあるんだということを知れたことは良かった。