いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「ファイフステル・サーガ3」師走トオル(富士見ファンタジア文庫)

かつて魔王戦役にて魔王軍に与した灰エルフの子孫たちが、《魔王の左腕》を奪還すべく五芒国へと再び侵略を開始する。灰エルフたちの鍛え抜かれた弓の腕と馬術によって、フライスラントの地に多くの血が流れ、兵たちが敗北を重ねる戦況にカレルが、ヴェッセルが動き出す――。
「心に正直になれ。どうして欲しい? 一晩中これを続けて欲しいのか?」灰エルフ族長のひとり“天秤の担い手”ギルセリオン。圧倒的な武と、女を堕とす術を持つ新たな英雄は、来るべき『セシリアの死』を起こす元凶か、それとも未来を変える存在か――。かくして歴史の表舞台に英雄は揃う!


人間と敵対する灰エルフの事情と、英雄ギルセリオンの為人が語られる第3巻。
こんな風にメインの扱いで灰エルフ側の視点があるのは予想外。散々死因としてセシリアの予知夢に出来ていたので、敵役として描かれるものだと思ってた。
その灰エルフ側の英雄ギルセリオンは、いろんな意味で規格外。一騎当千の武力に人間側の英雄と同等の知力を持ち合わせる傑物で、おまけに灰エルフというよりヴァンパイアというか、ラノベ主人公の中に一人エロゲ主人公が混じってるようなもんというか、要するにエロ方面でも強い。そんな訳で今回は、カレルの時の常にギリギリなハラハラ感ではなく俺TUEEE的な面白さ。
しかし、それだけで終わらないのがこの物語。
ギルセリオンと彼の一族が、人間憎し魔王様万歳な他の灰エルフとは一線を画す思想の持ち主で、魔王再臨の時にどういう立ち回りをするのか、現時点ではまるで予想がつかないところが興味深い。人間側の英雄カレルやヴェッセルとどういう出会い方をするのかも気になるところ。
敵側の英雄が出てきて人間側の事情も複雑化し、混迷を深める英雄譚。シリーズが長くなれば長くなるほど面白くなりそうな予感で、続きが楽しみ。
なのに、あとがきが世知辛い……。

「ゲーマーズ!DLC2」葵せきな(富士見ファンタジア文庫)

《雨野景太断ち》を決めた女子大生ゲーム実況者の霧夜歩。新たな相方を探していた彼女の前に現れたのは、雨野を彷彿とさせるワカメ系女子で――「そろそろ緊張はほぐれてきたかな、シアナ?」「は、ははは、は、はは、は、…はいです!」
さらに、なぜかギャル系女子までゲストに加わる事態に。「あぐりん、ぶっちゃけテレビゲーム自体が、そこまで好きでもないしぃ……」「うん、そこはぶっちゃけなくていいよ!」
賑やかな錯綜実況生活。しかし、後戻り不可のラスボス戦はすぐそこまで近づいていた!すれ違い錯綜青春ラブコメの拡張版、雨野景太の交際相手が踏み込むまで――残りゼロ秒。


表紙は魔女っ娘花憐。口絵は水着花憐に、スポーツ少女花憐。どれも天使のような愛らしさ。で、中にいたのは鬼、かな。
前巻(DLC)で景太の交際相手が登場することが予告されていて、本編11巻で決着がついているのでネタバレ上等で言ってしまうと、外伝主人公宅に花憐が乗り込んでくるわけだけど……鬼神花憐の行状はご自身で読んでお確かめください。私の口からはとてもとても。
そんな訳で外伝2巻は、その外伝主人公・霧夜歩の葛藤を描く物語。
間の悪さに運の悪さ。勘違いを生む言動に身も蓋もないツッコミ。前巻ではいけ好かないゲーム実況者の印象しかなかった歩が、どんどんズブズブと『ゲーマーズ』の沼にはまっていくのが面白い。もちろんメインは苦笑い。偶然という名の必然で、いつものメンバーと続々出会ってしまうところとか、なんだかんだで景太を気になってしまうところとか、まるで本編のよう。
本編ヒロインズと同様に、景太に出会ってしまったのが最大の不運ってことか。雨野景太被害者の会を作るべき。
そんな不幸な歩を含めて色々な意味で「恋する乙女は恐ろしい」話だった。ええ、そりゃあもう“色々な”意味で。金髪鬼さんが最恐に見えて、実はこれ心葉が一番怖くない?

「りゅうおうのおしごと!10」白鳥士郎(GA文庫)

竜王、遂に小学校の教壇に立つ!
「澪たち、くじゅるー先生に鍛えてもらいたいんです!」
小学生の将棋大会『なにわ王将戦』で優勝を目指すJS研。
しかしあいの新しい担任にJSとの同居を問題視された八一は、自らの潔白を証明するため小学校で将棋の授業を受け持つことに。
一方、女流名跡リーグ進出を目指すあいの前には謎の女流棋士が立ちはだかり、そして銀子は地獄の三段リーグで孤独な戦いを始めようとしていた――。
それぞれの戦場で繰り広げられる魂の激突。決意と別離の第10巻!
小さな背中に翼が生えたとき、天使は自らの力で羽搏き始める!!


小学五年生に上がったあいとJS研の澪と綾乃が、それぞれの戦いに挑むシリーズ第10巻。
今回は小学生が主役。クズロリ王大活躍で、頓〇しろ!の声がどこからか聞こえてきそう。
女流名跡リーグ進出をかけた大事な一番。ようやく回ってきたあいの番。と思ったら、小学生のアマチュア大会の前座かい! 前から思っていたけど、あいの将棋での扱いって軽くない? 熱が入る大一番はタイトル戦までおあずけってことなのかな。
そんなあいの活躍よりも、その時に明かされた八一のあい育成方針の方が強烈なインパクトを残していった。将棋が関わるとどこまでもクレイジーだな、この主人公。
さて、メインイベントになった『なにわ王将戦』は、
このシリーズは、才能、努力、根性のスポ根要素の強い物語であるが、今回はスポ根に欠かせない要素の一つ「友情」で泣かせにくる。
この1年で育まれたあいと澪の友情、その前から続く澪と綾乃の友情を軸に、小学生名人という強大な敵と相対する対局が熱い。盤に向かうのは一人でも、決して一人で戦っているのではないと、戦う前のサポートや前の対局の影響、友達への憧れなどのエピソードが、一つ一つ語られていくストーリーが涙腺を刺激する。
それと隠れてもう一つの友情も。ぶらっくきゃっとさんマジかわいい。ツンデレの鑑ですわ。
小学生メインとあって軽めの回ながら今回も面白かった。と言おうとしたら、最後の最後に爆弾が。
6巻からずっとこんな状態なんだから早く救い……は本人が求めないか。せめて戦うための帰る場所を作ってあげて、八一くん。小学生に「一人じゃない」と語った君ならそれができるはず。ただこの主人公、将棋が関わると鬼になるのよね……。

「魔法科高校の劣等生 司波達也暗殺計画 (2)」佐島勤(電撃文庫)

西暦二〇九六年五月、榛有希が司波達也に敗北をしてから約二年の月日が流れた頃。彼女は黒羽文弥直轄の暗殺者として日々依頼される仕事をこなしていた。
そんな中、有希の許に四葉家より“暗殺者見習いの少女”桜崎奈穂が派遣されてくる。自らのコンプレックスを鏡に映したような奈穂の幼気な容貌に辟易しつつも、二人の奇妙な共同生活が始まった。
そして、新たなるターゲットが決まる。
それは『人間主義』を掲げ、司波達也暗殺を目論むとある教団。奈穂は自らの能力を示すため独断専行を試みるが――。
落ちこぼれ? それとも? 独自なフラッシュ・キャストを扱う奈穂の力とは!?

魔法科高校の劣等生』スピンオフ作品第二弾。1巻の事件から2年後、本編では12巻と13巻の間の話。



このスピンオフ、思っていたのと大分違った。
毎回、達也を狙うことになる可哀想な人が主人公になる話なんだと思っていたら、2巻も榛有希の物語であり、彼女から見た黒羽文弥の物語だった。そして今回から桜シリーズの新キャラ、桜崎奈穂も参戦。

本編より、このシリーズの世界が感じられる話だな、と。
本編の方は世界有数の魔法師たちによる世界魔法大戦になっているので、有希や奈穂のようなごく普通の、または平均よりも劣った能力しか持たない魔法師から見たこの世界の景色が感じられるのが新鮮。何かしらの閉塞感や生きにくさをそれぞれに抱えているのは、時代が進んでも変わらずか。リアルだ。
それと、その普通の人達から見た達也や四葉家の姿も見えるのがいい(一応魔法師で裏稼業な時点で普通ではないが)。
中でも有希の達也やヤミに対するぼやきが面白い。大魔王て。合い過ぎて笑うわ。残念ながら最後の一言は手遅れだろうなあ。一度触っちゃったから、祟られ続けるだろう。
3巻の予定もあるそうで。奈穂によって改善された有希の生活状況がどうなっているかが見物。

「はたらく魔王さまのメシ!」和ヶ原聡司(電撃文庫)

今回は、魔王と勇者と二人を取り巻く者達の「メシ」に注目するグルメ編!
未知の食材「コメ」を食べるのに四苦八苦する芦屋。ポテトをきっかけにパソコンを手に入れたことを思い出す漆原。愛するうどんを食べることを全力で拒否する鈴乃。忘れていた趣味を思い出し散財してしまう魔王。突然同居することになった「娘」の食欲不振に「母」として悩む恵美。エンテ・イスラからの来訪者達がそれぞれに日本の「メシ」に向き合う中で、千穂はエンテ・イスラの豪華な料理に舌鼓を打っていた!
電撃文庫MAGAZINE」に掲載された六話に書き下ろし短編を加えた特別編が登場! 読んだらお腹が減ること間違いなし!?

メシをテーマにした『はたらく魔王さま!』の短編集



これはある意味凄いかもしれない。これだけ食べ物が出てくるのに飯テロ力がゼロに近い。最後のほっけで辛うじて完全なゼロを阻止した感あるw
文章での飯テロは、その食べ物を鮮明に想像させる表現も大事だが、食べたいのに食べられない「羨ましさ」を演出するのも大事な要素だと思う。その観点で見ると、流石は『はたらく魔王さま!』、生活感が出過ぎていて羨ましさを感じさせてくれない。
異世界人が炊飯器の使い方に悪戦苦闘したり、新米ママが子供の食事に悩む話は言わずもがな。古くなったフライドポテトを何とか美味しく食べる方法や、他の店よりちょっと美味いファストフードなども、羨ましいとは思えない。
唯一、千穂ちゃんがエンテ・イスラの料理に舌鼓を打つ話は生活感から離れたところにあったけど、見た目も味も想像できない異世界の料理に食欲は湧かないという。
と、なんだか腐してしまったが、普通に『はたらく魔王さま!』の短編集として読めば文句なしで面白い。庶民派ファンタジーなこの作品の肝はファンタジーと生活感のギャップな訳で、その生活感が凝縮されたようなこの短編集が面白くないわけがない。
それに昔の苦い思い出を語る形式の短編が多く、日本での生活に馴染み切っていない主要メンバーの姿が懐かしかったり、逆に目新しかったり。中でも魔王と木崎さんとの出会いが読める「魔王、飯のタネを得る」は、木崎さんとの出会いだけでなく、魔王が成長するきっかけがいくつも散りばめてあって、シリーズとして重要で、しかも読んでいて嬉しくなる話。
ビックリするほど食欲は刺激されなかった。でも短編集の中ではこれまでで一番面白かったかも。