いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「Unnamed Memory III 永遠を誓いし果て」古宮九時(電撃の新文芸)

「私の王よ。魔女が貴方に、永遠に変わらぬあ条を捧げましょう」
オスカーの呪いも解かれ、契約終了まであと三ヶ月。自分の心に迷うティナーシャの前に、新たな魔女の刺客が現れる。“呼ばれぬ魔女”レオノーラの狙いは、契約者であるオスカーの方で――。国を巻き込んでの魔女同士の苛烈な衝突、訪れる《魔女の時代》の終焉。そして王と魔女の恋の果て、全ての運命が書き換わる。


読み終わってしばし絶句。
第一部、こんな終わり方なのか。8章の入りは夫婦生活の何気ない一ハプニングのような軽い感じだったのに。
幸せの絶頂からどん底に、までは行かなくても冷や水はかけられた気分だ。夢中になって読んでいたので、余計に。
そこまでシリアスが無かったわけではないが、、、だって、ティナーシャが一々可愛くて甘~い気分にさせてくるんだもの。生死を分けた2つの大きな事件が起こって、それぞれに「献身」と「執着」が見えるいいエピソードなのだけど、その合間で見えるティナーシャの様子がそれ以上の破壊力。
自分の気持ちを周りやオスカーに聞きまくるところとか、結婚式当日の様子とか、可愛いを通り越してもうずるい。「本当に気が変わってしまった」で盛大に笑ってしまったじゃないか。幸せと笑いと、時々ほんのちょっと切なさが混じる、ティナーシャの台詞の言葉選びが絶妙。
そんな幸せ気分に浸っていたかったのに、物語は無情にも新展開へ。
オスカーの母の死の謎や、二国の宝物庫にあった一対の石の秘密など、回収されていない伏線の存在は気になってはいたが、、、幸せムードを霧散させて、こんなところで切られたら生殺しもいいところだ。
無事第2部の書籍化も決定したようなので、余分な情報を入れないように注意しながら新刊を待つ。
幕間はオスカーの母か?別の誰かか? まだ出てきていない水の魔女の存在も気になるところ。

「魔法科高校の劣等生 (30) 奪還編」佐島勤(電撃文庫)

水波を連れ、日本を脱した九島光宜。パラサイト化したレイモンドと共に、USNA軍基地のある北西ハワイ諸島を目指す。
一方、九重八雲という意外な伏兵によって追跡を阻止された達也だが、彼は水波のことを諦めてはいなかった。必ず連れ戻す、と深雪と約束したからだ。
光宜とレイモンドが逃れた先。そこは奇しくも、リーナが救出を願うカノープス少佐が幽閉されたミッドウェー監獄に近い、パールアンドハーミーズ米軍基地。
パラサイトを滅す新魔法『アストラル・ディスパージョン』を習得した達也が、水波と、そしてカノープス奪還のため、USNA軍基地を隠密裏に強襲する……!!


やっと「さすおに」って言える喜び。
ここまで何巻にもわたって準備してきて、ようやくの本領発揮。準備期間の割には暴れられた時間はそう長くないけれど、圧倒的な無敵感を発揮してくれたし、2ヵ所も襲撃しているしで概ね満足。「概ね」なのは、最後がちょっと拍子抜けなので、その分マイナス。
そのサブタイトル通り「奪還」をしていたのは終盤だけで、残りは達也を取り巻く環境や状況の変化。
中でも鮮明に描かれていたのは、達也と国防軍の対立。佐伯閣下ってこんな人だったんだ。対達也に関して悪手を選び続けるヒステリックおばさんに「やれやれ」と「あ~あ」の連続。そりゃ、彼女も四葉の勧誘になびくよ。
その四葉は、使える駒を着々と取り込んでいた。もう誰も逆らえないんじゃ・・・。てか最近、真夜さんの出番多くね? 相変わらずのラスボス感。どっかの誰かに見習ってほしい。
それにしても、シリーズ序盤は四葉憎しで、国防軍は味方とまではいかないけれど頼れる存在だったのに、随分と変わったもんだ。
次は日本に集まり過ぎた戦略級魔法師をめぐっての一悶着。水波の容態が回復した理由は? 逃げたラスボスは少しでも強くなって帰ってきてくれるのか?辺りが気になるところなのだけど、しばらくお預けかな。

「86―エイティシックス― Ep.7 ―ミスト―」安里アサト(電撃文庫)

上位指揮官機〈無慈悲な女王〉。それは対レギオン戦争で守勢に立つ人類に与えられた“銀の弾丸”。『第86独立機動打撃群』の活躍で〈彼女〉の確保に成功した連邦・連合王国は、轡を並べる第三国「ヴァルト盟約同盟」にて、その解析と「尋問」を開始する。
一方、大戦果を上げた者たちにも報奨が授与された。特別休暇。鉄と血にまみれた日々を、僅かひととき遥か遠くに置き、シンとレーナはじめ皆はそれぞれに羽を伸ばす。が、同時に《その二人以外のほぼ全員》はある思いを共にしていた。
それは。“お前らいい加減、さっさとくっつけよ”
もう一つの戦線がついに動く(!?)Ep.7!


7巻は、ラストにダンスパーティも催される第86独立機動打撃群の慰安旅行。
ついに来た、本当に来た戦闘無しのライト回。その中身はまさかのラブ一色。これ本当に『86』?
想いを伝えたいのに機会と度胸に恵まれないシンはらしくなくテンパり続け、レーナは自分の気持ちを自覚するのに遠回りして空回りする。あまりに初心で読んでいるこっちが恥ずかしくなる拙い恋愛模様を、周りのメンバーと一緒に生温かい目で見守る回。
君ら、中高生かよ!と呆れそうになったが、そういえばまだ普通に十代だった。苛烈な戦闘を冷静に駆け抜けているので、若いイメージが全然ない。特にシンは。
そのシンの方は、あんな境遇なのに普通の男の子をしている様子に感慨に浸る。くらいの余裕ある感想が出てくるのだけど、問題はレーナさんですよ。
予想以上のヤキモチ妬きで、相手の全てを知らないと落ち着かない、予想以上に相当面倒くさい子だった(苦笑)。その分、傍から見ている分には楽しくて可愛らしくて大いにニヤニヤできるのだけど。今回周りの女子が苦労してように、今後はシンも相当苦労するんだろうな。がんばれー(ニヤニヤ)
そんなわけで最初から最後までベタ甘なラブコメで、大変美味しくいただきました。
ただ、この作品だと思いの成就は死亡フラグにしか見えないっていう強烈なジレンマが。フラグ回避の意味もあっての、あとがき後のエピソードだったりする?
キャラ紹介は終わっている盟約同盟のエースの戦いぶりに、〈女王〉からもたらされた情報の扱い、マスコットからキーパーソンになったフレデリカの今後、シンやレーナどころではない死亡フラグを立てた彼は回避できるのか。などなど気になることが沢山で次回も楽しみ。但し、今回が平和だった分、次の反動が怖い。

「解術師アーベントの禁術講義」川石折夫(電撃文庫)

魂に直接メスを入れ患者を蝕む『呪い』を除去する異端の解術師・アーベント。
通常の治癒魔術では治せない呪いでさえも解いてみせるその奇跡の施術は、失敗すれば死亡率100%の禁忌の術だった。
闇医者と疎まれながらも、魔術講師として神学校に勤め、とある目的のために『解術』に取り組む日々。
そんな中、天才魔術師・レイミュの襲撃に次ぎ、校内で生徒が石化される事件が発生。アーベントの手腕をもってしても一筋縄ではいかない呪いの魔の手は、ついに彼の教え子にも及んでしまい――。
外道魔術医の戦いが今、幕をあける!


緊迫の手術シーン、医師のプライド、学会の闇と権力争い。ライトノベルで本気で医療ドラマをやろうとした意欲作。
ミステリアスな魅力のある主人公に、初めは彼を敵視するライバルの存在。女の子多めのキャラクター配置に、コメディとシリアスのバランスの良さ。なにより手に汗握る手術シーンは読み応え十分。
と、基本は抑えられている印象。
ただ、如何せん説明過多。おかげでバランスは悪いしテンポも悪い。
幾重にも重なった主人公の秘密、神と特殊な街(世界)の形態、悪魔・天使の存在、新旧や使う種族で細分化されている魔術……考えたものは全部入れたい気持ちはわかるけど、明らかに設定を詰め込み過ぎた。
説明に追われてほんちょっとのシーンがかなりページ数になっていたり、前後で事実が矛盾していたり(助手必須なら、冒頭の成金親父はどうやって直した?など)、盛り込んだ設定を扱いきれていない場面がいくつもあるがもったいない。
それと、説明過多の煽りもあるのか主人公以外のキャラクターの扱いが雑。レイミュ(パッケージヒロイン)はあっさり心変わりするし、事件の犯人の犯行経緯は行き当たりばったりだし。
光るところはあるが、全体としては「うーん・・・」な新人賞の拾い上げ作品らしい“佳作”な作品という感想。

「居酒屋がーる」おかざき登(LINE文庫)

片菊嘉穂は今日も馴染みの居酒屋『竜の泉』のカウンターで日本酒をたしなんでいた。嘉穂の頼んだ料理が運ばれてくると、それを隣で見ていた女性が「おいしそう。私もそれください! 」と頼み、さらにその隣に座っていた女性も「わたしも便乗させてもらってもいいですか」?と続けて頼む。ところが、それが最後の一皿だったので、残念がる二人。「もしよかったらシェアします」?と嘉穂が持ちかけ……。それが『竜の泉』を舞台にした三人の女性、片菊嘉穂、七瀬美月、新藤貴美の物語の始まりだった。


お腹が鳴りました。
お酒と料理の描写に特化した居酒屋小説。 
もちろん人間ドラマがないわけではないけれど、三人の女性がお酒(主に日本酒)と料理の組み合わせについて真剣に考察するのがメイン。なので、お酒の描写は見た目から香り、温度、飲み口、後味と事細か。料理の方も同様の細かさで、そこに素材の薀蓄が入ってくる。しかも、ザ・酒の肴という料理が多いので、呑兵衛にはたまらない。そういえば、ちょっとした愚痴や人情噺も、つまみの一つのだな。なんだか、すべてが酒を飲ませるために書かれているような気がしてきた。
どの話も美味しそうで羨ましいのだが、個人的なNo.1は「第七話 鯖づくし」。刺身に炙りにリュウキュウ……それが無口な店主が自らオススメしてくる一品ってのが卑怯だ。現地じゃないとなかなか食べられないホヤ(第九話)も捨てがたい。
話として好きなのは「第五話 牛すじの煮込み」。新人社会人の貴美が、見知らぬ男性相手でもちゃんと自分の意見が言えているところと、その後正体を知って大いに赤面する可愛らしさ。どちらも良い。
最高の飯テロ小説だった。

しかし、お酒が出てくる読みものは、どうしてこうも日本酒に偏るのだろう。どこかにガチ焼酎党の作家さんはいらっしゃらないのだろうか。