いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「白き帝国1 ガトランド炎上」犬村小六(ガガガ文庫)

白き帝国 (1) (ガガガ文庫 ガい 2-34)

「全ての色彩を重ね合わせると、白になる。ぼくが目指すのは、全ての種族が共に暮らす『白き国』だ」。
異なる種族同士が争いをつづける葡萄海。頭部に猫耳を持つ「ミーニャ」族が支配するガトランド王国の第二王子トトはある日、人質として送られた人間の少女アルテミシアと出会い、親交を深める。しかし人間とミーニャの間には根深い差別意識があり、ふたりの淡い恋にも残酷な運命が降りかかることに…。
犬村小六が圧倒的筆力で描く超大型ファンタジー群像劇、ここに開幕!!


人族と獣人族が共存する世界。種族同士の争いが絶えない世の中で、猫獣人が覇権を握る葡萄海を舞台にした、種族の壁なく仲良く平和に暮らせる国「白き国」を夢見る若者たちの空戦×青春群像劇。

犬村先生には人の心がないのか!(←著者のXによるとこれは誉め言葉らしい)
よりにもよってこの話を2/22猫の日に読んでしまった心の叫び。
読み終わってから表紙を見ると、人選・色・表情が全て皮肉としか思えないので、編集(と場合によっては絵師)も同じ穴の狢だけどな!

偏見・差別・遺恨に縛られた相容れない異民族の物語。
現状の勝者の為政者は搾取に走り、若者は理想を掲げる。敗者は恨み辛みを重ね、それを晴らす機会を虎視眈々と人生を賭けて狙っている。利己主義で排他的な人間の本質を鮮明に描きつつ、どこか現在の世界情勢も感じられる、シビアな戦争の話だった。要約すると猫耳が酷いことされる話。
ストーリーとしては、初めから胡散臭い奴等が順当に裏切っていくので勝敗や戦況での驚きはないが、エピローグ(五章)になるまで誰が主役がわからない話の造りになっているで、どう話が転がるのかはまるで読めなくて、最後まで目が離せない。まさか彼(彼女)が主役格へと躍り出てくるとは!と思う人物が少なくとも一人は居るはず。
空戦の描写は前作『プロペラオペラ』と似た限られた高度での戦闘で、前作よりも高度が低いこともあってかイメージ的には空戦というより海戦に近い。また、異能が強力でファンタジー色が強いのも特徴。
ここからの逆転は流石に無理では?というところまで追いつめられてしまっているのだが、ここからどう逆転劇を見せてくれるのか、あとどれだけ酷いことされるのか、今後も目が離せない。

「獄門撫子此処ニ在リ2 赤き太陽の神去団地」伏見七尾(ガガガ文庫)

獄門撫子此処ニ在リ: 赤き太陽の神去団地 (2) (ガガガ文庫 ガふ 6-2)

「神去団地へようこそ――そして、ご愁傷様」ここは神去団地。量産された建物が地を埋め尽くし、赤く奇妙な太陽が支配する。現世と幽世のはざま、閉じ込められた無耶師たちが太陽を巡って日夜争う異形の園――そんな場所で、『獄門家』としての過去も、アマナとの記憶すら失って、撫子は目覚めた。人々の欲望が絡み合うなかで、撫子とアマナはこの異形の地の因縁を断ち、脱出できるか。そして撫子は、忘れてはならなかった約束を、思い出せるのか――うつくしくもおそろしい少女鬼譚、霍乱の第二巻。


“鬼”の少女と“狐”の女性の京都を舞台にした現代怪異アクション第二弾。
とある天狗の一族が作り出したらしい現世と幽世のはざまにある神去団地。そこには数多くの無耶師に一部の一般人まで閉じ込められていた。彼らと同じく閉じ込められてしまった撫子とアマナは、脱出方法を模索しながら戦いに身を投じる。

いくつもの集団(天狗の一族/カルト教団/その他の無耶師たち)が繰り広げている血生臭い闘争に横から突っ込んでいく状況。はざまの世界が作り出す、隣にいる仲間が次の瞬間に居なくなったり、突然敵が突っ込んできたりの“なんでもあり”な場面転換。それらが重なって全く息つく暇を与えてくれない怒涛の展開だった。
そこに廃墟特有の澱んだ団地の空気に、不気味で意味深な張り紙の数々。ジャパニーズホラーな雰囲気が掛け合わされて、独特な世界観が広がっていた。
それでいて、やっていることは最近仲良くなった女の子二人が、一緒に水族館デートに行くまでの紆余曲折というね。
一緒に居る時は軽口をたたき合っているのに、切り離されて一人一人になると、双方初めて友達がどれだけ大事で傷つけたくないか、悶々と悩みだす姿がいじらしくて尊い
ただ、読みやすかった1巻と比べると2巻はとっ散らかっていて読みにくい面も。
多対多の戦闘が多かった所為かアクションは状況が分かりにくく、場面が次々と切り替わる展開はスピーディさと驚きはあるのだが、結局今何しようとしてたんだっけ?と迷子になる。二人の悩みも合流したり離れたりの繰り返しの所為で、ずっと同じことをうじうじと悩んでいるように感じてしまう。全体的な構成は1巻の方が上手かったように思う。
それでも、おどろおどろしい雰囲気と緊張の連続の展開、そして百合。今回も作者の独特な世界を堪能できた。

「変人のサラダボウル6」平坂読(ガガガ文庫)

変人のサラダボウル (6) (ガガガ文庫 ガひ 4-20)

サラが芸能界にスカウトされ、惣助はサラと一緒に東京の事務所へ見学に行くことになった。親子での初めての旅行や夏休みの様々なイベントを通して、さらに絆を深めていく二人。そんな惣助を想う女たちも、それぞれの思惑で動き出すのだった。一方、ヤクザと半グレ組織とカルト教団を一手に束ね、岐阜の裏社会の帝王となってしまったリヴィアは、当然ながら警察からマークされる羽目になる。平穏な日常を取り戻すため、リヴィアは組織の健全化を図るのだが……。ついにあの人物の正体も明かされる、予測不能の群像喜劇第6弾!


岐阜を舞台にしたカオスな群像劇、第6弾。
サラはスカウトされた芸能事務所の見学に惣助と東京親子デートへ、リヴィアは命の意志を継ぎ、組・半グレ・カルト教団を一まとめにした会社のCEOに……相変わらず後者は何言ってるか分からなくなるなw
サラの方は新幹線に、都会の街並みと喧騒に、友達との川遊びにと、夏の体験を一つ一つ感動して楽しんで、ごく普通の中学生の夏休みを満喫していた。なんて健全なんだ。
一方、リヴィアは岐阜の裏社会のトップ(お飾り)に。うん、もうどんな肩書がついても驚かないぞ。
ただ、常識知らずの蛮行とほぼ流されているだけだった今までと違い、解ってその道に進んでいるような気が。ホストとか。転移前のクズエピソードも出てきたりで、アライメント:中立が疑わしくなってきた。
あと、意外と目立っていたのが惣助、というか友奈。まさかのヒロインレース本格参戦。惣助は何でこんなにモテるんだ? 但し、全員負けヒロイン臭がするのはなんでだろう。
5巻のインパクトが強かったので、今回はその続きという印象の強い巻だった。リディアの奇行に慣れてきた面もあるかも。慣れたくはないが。
そんな中、何かやらかしそうな種蒔きはしっかりとされていて、さらに終盤意外なタイミングで時がジャンプして、次回大きく動きそうな予感がプンプン。
とりあえず、異世界から新たな刺客……という名の被害者が来るらしい。あの主従のどちらにも関わらずに迷走する姿しか想像できない。

「新・魔法科高校の劣等生 キグナスの乙女たち (6)」佐島勤(電撃文庫)

新・魔法科高校の劣等生 キグナスの乙女たち(6) (電撃文庫)

『九校フェス』。九つの魔法科高校による合同文化祭だ。夏休みが明けた第一高校は目前に控えるこのビッグイベントに浮き足立っていた。
だが、九校フェス以外にも茉莉花を悩ませる問題が。生徒会選挙によって新たな生徒会長となったアリサの義兄・十文字勇人が、アリサに新生徒会へ入るように依頼してきたのだ。
生徒会役員と風紀委員の兼任はできないため、風紀委員の茉莉花はアリサと離れ離れになってしまい……。
少女は悩みを抱えたまま、九校フェスが幕を開ける――。


達也の時代にあった『論文コンペ』が諸事情によりなくなり、代わりに出来たのが魔法科高校九校あげての合同文化祭『九校フェス』。
新たに生徒会書記になったアリサと風紀委員の茉莉花は、その九校フェスの準備や本番の見回り等、裏方の仕事にに忙殺される。その裏で達也の暗殺や魔法師の誘拐を画策するロシアンマフィアと、それを阻止すべく暗躍する黒羽家に九島家に他諸々の(一方的な)戦いを描く。

キグナスの乙女たち』の続きというより、7割くらいは黒羽姉弟が主役の『夜の帳に闇は閃く』の続きな内容。
マフィアの下っ端がいっぱい出てくるが、全てアリサたちに害が行く前に阻止されるので、アリサたちにとっては自分たちが主役でないフェスの裏方を無難にこなしただけの話にしかなっていない。おかげで『キグナスの乙女たち』としての盛り上がりは全くない。言い方は悪いが“一緒に風呂に入れとけばいいだろ”という雑な百合感が感じられる。
一方、『夜の帳に闇は閃く』としても盛り上がりはない。
黒羽姉弟が優秀過ぎたのが敵があまりにも弱すぎたのか、ほぼ戦闘になる前に終わってしまう。まあ後者かな。あとは胡散臭い誘酔先輩と九島朱夏が道化になったくらい……かわいそうに。
九校フェスという新たなイベントを作ったのならそれに全力でいいのに。どうして裏社会の話を入れたがるかなあ。
堀越先輩の魔法×VRシステムなんて掘り下げればかなり面白そうだった。あれを上辺の説明だけして終わりにするなんてもったいない。
達也に一条茜に黒羽姉弟と同シリーズ他作品のキャラが次々出てくるスピンオフ作品の醍醐味はあったけど、話としては何がやりたかったのかよくわからない。というのが正直な感想。