いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



楽園まで (トクマ・ノベルズEdge)

「楽園まで」張間ミカ(トクマ・ノベルズEdge
楽園まで (トクマ・ノベルズEdge)

雪が降り続ける世界。普通の人と目の色がオッド・アイの少女ハルカと弟のユキジは、異能を持つために悪魔と呼ばれ、教会に追われていた。ハルカは心を失った双子の弟ユキジの手を引いて〈楽園〉を探す。
旅の最中に出会った青年ウォーテンは二人が悪魔であることを知っても態度を変えなかった……。
一方、悪魔を駆る役目を担う「狩人」の青年ルギは、教会に疑問を抱き始めていた。
ハルカとユキジは、楽園の在り処を知るが、「狩人」たちに追い詰められて……。


――お願い。何も望まないから、なにも奪わないで。

第5回トクマ・ノベルズEdge新人賞


世界の醜さを少女の視点で美しく描ききった良作。
まず見えてくるのは世界の醜さ。主人公のハルカ、教会が作る世界で悪魔とされる異能の力を持つ彼女を通して見えてくるのは、世界の冷たさ、不公平さ、理不尽さ。狩る側である教会の狩人ルギの葛藤、ルギ(理想)とミウラ(現実)の対比もそれを強調する。
そんな世界で生き抜くハルカ。その強さ、気高さに否応なく惹かれる。
中でも最も好きな一文がこれ

潔く死を選ぶ生き物は馬鹿だと思う。足掻いて死ぬほうがよっぽど、生きていた感触が残るに違いないのに。

そんな、どんなに酷い境遇であっても生きることに対する前向きな姿勢は美しいとすら思う。
また印象的なのはこの世界に降り続ける雪の存在。世界の冷たさとハルカの美しさ同時に表したようなこのアイテムが、物悲しくもどこか救いもある独特の雰囲気を作り出している。
難点を言えば各イベントが素直すぎるというかテンプレート的で少し盛り上がりにかけること。ここが良ければ冒頭の一言は良作じゃなくて傑作になっていたかも。
辛く厳しい彼女たちの問題は何も解決していないが、そこを生き抜くための答えはしっかりとある。泣きたくなるほど切ないけれど、最後は勇気をくれるそんな作品だった。
流石は満場一致の新人賞、良いものでした。