いつも月夜に本と酒

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その日彼は死なずにすむか? (ガガガ文庫)

「その日彼は死なずにすむか」小木君人ガガガ文庫
その日彼は死なずにすむか? (ガガガ文庫)

僕は死んだ。何もいいことがない、17年の人生だった。……でもマキエルと名乗るいきものが言うには、もういちど10歳からやり直し“奇跡の欠片”をあつめれば次は死なずにすむらしい。北欧から転校してきた明るいソフィア、絵がうまいとも実、甘えさせてくれる隣のお姉さん弥宵――奇跡の欠片がなんなのかマキエルは教えてくれなかったけど、僕はまえはぜんぜんできなかった、身近な女の子たちとのふれあいをたいせつに生きよう、こんどは悔いを残さないために、と思った。だけど……。第3回ライトノベル大賞ガガガ賞受賞作。

17歳で死んでしまった少年が10歳からやり直す過去改変もの。


うん、いい話だった。どうやらガガガの新人賞は灰汁抜きしたらしいw
オープニングまではいい加減な設定の説明*1と見えているもの隠れているもの共に悪意が強烈だったりと取っ付き難い面があるが、三人の少女たちとの話が始めるとそれらを忘れるくらい真っ直ぐな青春小説に。
とにかく鋼一の頑張りに尽きる。やり直し前、引っ込み思案で人と話すことが苦手だった少年の少女たちとの交流はたどたどしくてもどかしいことこの上ないけど、それだけにその精一杯の勇気が伝わってきて素直に心打たれる。個人的に好きなのはソフィアとの各シーン。感情をそのまま表に出すソフィアに振り回される鋼一の姿にニヤニヤしつつ、ソフィアに感化されたようにちょっとずつ前向きになっていく鋼一の変化に嬉しくなる。
ただ、所々すっぽり抜け落ちているのが気になる。
自殺未遂後の弥宵の家族の反応とか伏線っぽいのに拾われないとか気になるところはいくつかあるが、中でも一番大きいのは鋼一が目を覚ました瞬間がないこと。そこにあるべき少女達の涙と真っ先に上がるであろう疑問がないので、どうしてもエンディングが繋がらない。三人三様にどれもいいシーンなだけにもったいない。
とまあ、粗は多いけど、変に着飾ってない素朴な感じの文章となあなあで終わらずにきっちり答えを出した鋼一に好感もてるし、なにより文句なしのハッピーエンドで読後感が素晴らしい。素直にいい話だったと言える青春ラブストーリー。

*1:マキエルは『上等。シリーズ』の槍ヶ岳(第一世界)の存在に近いものだと勝手に認識している。あんなに明け透けじゃないけど。