いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「星をさがして」張間ミカ(トクマ・ノベルズEdge)

星をさがして (トクマ・ノベルズEdge)
星をさがして (トクマ・ノベルズEdge)

星が大好きな少女ガートルードは、人間と妖精が共存する樹上都市・ペリドに住む魔女だ。この街に来て二年、孤児院の子供たちに空を廻るものについて語り聞かせる仕事をしている。そんなある日、星がつまった部屋の存在を知ったガードルードは、夜色の猫の姿をしている夜の神ノクスを招喚する。彼女の望みはノクスがかつて作ったとされる、星がつまった部屋をもう一度作ることだった。「君はどうして、星の部屋を作りたいんだ?」夜の神はそっと訪ねる。「夢だったんです。わたしと、両親の」魔女はぽつりと答えた。
樹上都市に住む魔女が星の輝きに見る過去と未来。すこしでもあの星に近づきたくて。


これは凄いものを読んでしまったかもしれない。
文章だけでここまで表現できるものなのかと思わせるほど、丁寧かつ繊細な情景描写で風景の挿絵は一つも無いのにも関わらず、どの場面でも脳裏に映像が鮮明に思い浮かぶ。舞台である樹上都市をはじめ、そこから見上げる夜空も流れる水もどれも美しく、脳内で映像美溢れる劇場映画を一本見た気分。
また、小悪魔的な少女・ガートルードの物語としても魅力がいっぱいつまっていた。
いくつかの小冒険が繰り広げられる前半は、かなりじゃじゃ馬なガートルードにハラハラドキドキしたり、愉快な妖精たちの生態が描かれていたりと、コミカルで楽しい。
ガートルードの過去が明かされ一転してシリアスになる後半では、その表現力が心理描写でも発揮されている。
彼女の過去を知るだけでも胸が締め付けられそうになるのに、彼女のつぶやきや小さな所作からは心の悲鳴が聞こえてきそう。そして、それでも自分自身に向かい合い、自分で選んだ道を突き進むガートルードのたくましい姿に胸が熱くなる。
それと、彼女と行動を共にする夜の神・ノクスの存在がまた良い。
退屈しのぎで付き合っていたはずが、ガートルードの突飛な行動に呆れ顔をしながらも退屈を忘れ、彼女の不敬な態度に腹を立てつつも興味を引かれ、いつの間にやら心配し手を差し伸べるまでに縮まっていた距離感が心地良かった。
ここまで完全に飲み込まれて、読書を堪能したという気分になったのは久しぶり。情景描写に文字数をかけている分読むのに時間がかかるが、この本に関してはゆっくり堪能できて幸せだと思えた。


前作「楽園まで」も好きだが、今作はそれ以上。
強くあろうとする少女という軸はそのままに、情景描写の素晴らしさには磨きがかかり、切なさばかりが強かった前作とは違った温か味のある世界観まで味わえた。
もう完全にファンです。