いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「サクラコ・アトミカ」犬村小六(星海社FICTIONS)

サクラコ・アトミカ (星海社FICTIONS)
サクラコ・アトミカ (星海社FICTIONS)

――サクラコの美しさが世界を滅ぼす。
畸形都市・丁都に囚われた美貌の姫君、サクラコ。七つの都市国家を焼き払う原子の矢は、彼女の“ありえない美しさ”から創られる……!
期待の新星・犬村小六が放つ、星海社SFの新たな代・表・作。


不思議な感覚の本だった。
ジブリ作品を思わせる壮大なスケール&王道ボーイミーツガールであり、サクラコとナギの砕けた会話は普通のラブコメのようであり、ファンタジーな世界観と片山さんのイラストが醸しだす雰囲気は絵本のようでもある。それでいて話の内容は残酷だったり、ド変態が出てきたりとえぐい部分も。
そんな一見バラバラな要素が見事に融合して、一つの綺麗な物語として成り立っているのが不思議で心地よい感覚だった。
話の流れも綺麗。
中盤までは外の世界ではきな臭い話が展開しているが、サクラコが捕らわれた塔の中での話の方が印象が強く、静かで穏やか。じゃれるわがまま姫・サクラコと、それに少しずつ心を開いていく怪物・ナギの様子が微笑ましい。
これが後半、別々に展開されてきた奇数章と偶数章の繋がりが分かるところから、話が一気に盛り上がる。
過酷な運命を強いられる二人に胸を痛め、強いる知事に憤り、それでもお互いを想うことをやめないナギとサクラコに涙腺が緩む。
願うことの強さと夢の詰まったラストも最高で、充実した読後感を味わえた。
素直に「良いものを読んだ」と感じさせてくれる一冊。