いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「夢の上3 光輝晶・闇輝晶」多崎礼(C★NOVELSファンタジア)

夢の上3 - 光輝晶・闇輝晶 (C・NOVELSファンタジア)
夢の上3 - 光輝晶・闇輝晶 (C・NovelsFantasia た 3-8)

サマーアの空を覆う神の呪いは砕け散る。天空に広がるは深く抜けるような蒼穹。その中心で輝く黄金の太陽。人々は驚喜した。


しかし。
夢売りと夜の王の元には、まだ二つの彩輝晶「光輝晶」「闇輝晶」が残されていた――


文句なしに傑作でした。
一つの出来事を六つの視点で綴られる物語なので、起こる出来事はすでに分かっているはずなのに、それでも読み手を引きつけ新たな感動を与えてくれる物語に感服です。


光輝晶はシアラことアライスの物語。
これまでの誰の視点で読んでも無理をしている、背伸びしている感じが伝わってきたアライス。本人が本当に感じ考えていたことが分かるこの話で見えてきたのは、思っていた以上に年相応の普通の女の子だったということ。
そんな娘が自分が信じた正義だけを見つめて、まっすぐ突き進んでいく姿は眩しいけれど、いつ壊れてもおかしくない怖さも感じる。最後まで夢を追い続けられたことが奇跡のようで、過去四章ではそこまで感動したシーンでなくても、起伏の激しいアライスの感情に揺さぶられ、もらい泣きしそうになった。


闇輝晶はアライスの異母兄ツェドカの物語。
王城から、サマーアの暗部から、事のあらましを最後まで見届けた物語。
動の妹とは対照的な静のツェドカの物語は、泣きたくなるような感動的なシーンは少ない。しかし、その立ち位置と冷静な視点から物語の謎が次々と補完されていく様は、もう少しで完成するジグソーパズルのピースが、綺麗に埋まっていくような爽快感と終わってしまう寂寥感に同時に襲われる。中でも「夢の上」というタイトルの本当の意味が分かるシーンの衝撃は忘れられない。


生まれも思想も境遇も何もかもが違う6人に、この物語に登場した他の人物も加えた皆が見た一つの夢が結実する多視点本格ファンタジー。素晴らしい物語をありがとうございました。