何もせずに朽ち果てるくらいなら、口先だけで手に入れてみせよう。金も力も愛も、そして王座さえも……。
ローデン国の第二王子であるフィッツラルド。第一王子を後継者にと考える国王からは疎まれ、その第一王子からは頻繁に刺客を送られ、茨の日々を過ごしている。しかし彼は決意する。相手が誰であろうと、騙りつくそう――すべては生き抜くために。
頭脳と口先で自らの運命を変えた、ある少年の物語。第17回電撃小説大賞4次選考作。
まだ若く容姿は平凡だが、野心と頭の回転は人一倍、そして自分を生かすことにかけては天才的な第二王子のサクセスストーリー。
常に第二王子フィッツラルドの視点で語られ、戦乱の世の中ではあるものの、戦争の描写は少なく王族や貴族の醜く苛烈な権利争いがメイン。フィッツラルドの言葉使いが軽いので、王族の威厳や中世ファンタジーに合った雰囲気が感じられないのが少々難点だが、反面読みやすく、彼の話術の真偽や意図を考えることに集中できる。
そして物語の核である王子の騙りが実に上手い。
明らかな嘘は最小限で、真実の一部を隠すこととハッタリで、時に人心を掴み、疑り深い人間も自分の思惑通り動くように誘導していく王子の口先に舌を巻く。そして、情報をまるで道具のように使い劣勢を次々と逆転していく様子が気持ちいい。
また、真実を隠すこととほんの少しが嘘が、物語の先を隠し、どこまでが真実でどこからが嘘なのか考えさせられるストーリーにもなっているのが、また楽しい。
派手さはないが、頭のいい人が主人公だったり頭を使う作品が好きな自分としてはとても面白かった。
メディアワークス文庫で良かった。電撃文庫で出して派手な戦闘シーンなんて付け加えられたら台無しだもの。