いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。」左京潤(富士見ファンタジア文庫)

勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。 (富士見ファンタジア文庫)
勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。 (富士見ファンタジア文庫)

勇者試験直前に魔王が倒されてしまい、勇者になれなかった少年ラウル。幼い頃からの夢が破れて腐っていたラウルは、王都にあるマジックショップで働く日々を送っていた。そんなある日、一人のバイト志望が驚愕の履歴書を持ってショップに現れる――。
〈名前〉フィノ〈前職〉魔王の世継ぎ〈志望動機〉親父が倒されたから
魔王の子供・フィノの教育係に指名されたラウルだったが……。
「敬語ってのはな、丁寧な、かたい感じの言葉だよ」
「フハハハハ。よくぞ我がレジまでたどりついたな、お客様め!」
「ストップ!ストップ! ……いったん落ち着こうか」
勇者の卵と魔王の卵が織りなす、ハイテンション労働コメディ!!

第23回ファンタジア大賞金賞受賞作。最近流行りの職業もののファンタジー



ファンタジーなのになんという世知辛らさ。
現代に特殊な設定を付け加えたり異世界人が現代に来たりするのではなく、魔法があり魔族がいるファンタジーな世界に現代の経済情勢を反映させた世界観。不況やら就職難やら、そこまで現代を反映しなくてもと思う厳しさに思わず苦笑が漏れる。
やっている仕事もこれまた現代風。
魔法≒電気という設定で、マジックショップは家電量販店。
接客などの通常の小売業の大変さは宇井に及ばず、クレーマーや扱いに困る新製品など出てくる問題に妙にリアリティがある(これは作者の実体験では?と思ったら案の定だったわけだが)
そんなで店で働く主人公ラウルとアルバイトのフィノ。勇者になれなかった少年と魔王になりたくない少女の奇妙な関係はラブコメテイスト。
店内の問題と社会常識のないフィノに振り回され苦悩しているラウルの姿は笑える(苦笑交じり)し、性格は真面目なフェノに感化され勇者への未練を断ち切っていくラウルの姿はなかなかカッコいい。そんなラウルに懐いているフィノの様子が子犬っぽくて可愛く、彼女が気付く当たり前のことにが働くことの大切さを教えられたりもする。
そんなわけで、職業ものとしてもラブコメとしても面白かった。
このまま二人の成長を見守るのも良いし、フィノの立場を使って話を大きくすることも出来そう。続編に期待。