いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「聖なる怠け者の冒険」森見登美彦(朝日新聞出版)

聖なる怠け者の冒険
聖なる怠け者の冒険

「何もしない、動かない」ことをモットーとする社会人2年目の小和田君。ある朝目覚めると小学校の校庭に縛られていて、隣には狸の仮面をかぶった「ぽんぽこ仮面」なる怪人がいる。しかも、そのぽんぽこ仮面から「跡を継げ」と言われるのだが……ここから小和田君の果てしなく長く、奇想天外な一日がはじまる。朝日新聞夕刊連載を全面改稿、森見登美彦作家生活10年目にして、3年ぶりの長篇小説。


この語り口は三年ぶりなのか。もっと長いこと読んでなかった気が。京都の空気を感じながら、突拍子もなく空想(妄想)の世界へ入り込む不思議な世界観も懐かしい。
話としては謎の怪人にして正義の味方のぽんぽこ仮面という軸はあるものの、登場人物たちが好き勝手にやってる感が強い作品。
半分は寝ている脅威の主人公・小和田君や哀愁漂う所長など阿呆だが憎めないキャラクターばかり中で、お気に入りは女性陣。
何事にも動じない安定の桃木さん。そのなんでも楽しめる感性が素敵で羨ましい。彼氏の恩田先輩は主導権を握っている様に見えて実はいい様に転がされてるじゃないだろうか。
その桃木さんとは反対にちょこまかとよく動く玉川さん。方向音痴で同じところをぐるぐる回っているところなんかハムスターみたい。こんな子が近くに居たら毎日飽きないだろなあ。
と、かなり楽しんで読んでいたのだけど、ちょっとだけ違和感が。
いつもの森見作品ならしっかりした地盤が合って、そこから空想の翼が生えて飛びすような心地いい浮揚感があるのだけど、今作はずっと夢の中というか、現実と空想の境界がいつもよりさらに曖昧で、地に足が着いていない気持ち悪さが最後まで付きまとった。
宵山(祭)の空気のせいか、復帰第一弾で本調子じゃないのか。そういえば森見作品で一番合わなかったのは『宵山万華鏡』だったなあ。前者ということにしておこう。