いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「つれづれ、北野坂探偵舎 心理描写が足りてない」河野裕(角川文庫)

つれづれ、北野坂探偵舎 心理描写が足りてない (角川文庫)
つれづれ、北野坂探偵舎    心理描写が足りてない (角川文庫)

「お前の推理は、全ボツだ」―駅前からゆるやかに続く神戸北野坂。その途中に佇むカフェ『徒然珈琲』には、ちょっと気になる二人の“探偵さん”がいる。元編集者でお菓子作りが趣味の佐々波さんと、天才的な作家だけどいつも眠たげな雨坂さん。彼らは現実の状況を「設定」として、まるで物語を創るように議論しながら事件を推理する。私は、そんな二人に「死んだ親友の幽霊が探している本をみつけて欲しい」と依頼して…。

元編集者で喫茶店のオーナー兼探偵業の佐々波と小説家の雨坂の青年コンビによる探偵もの。通常の探偵業もするようだが、作中では幽霊が関わる事件のみを扱う。



この書き出しは上手いなあ。
「なんだなんだ?」と思わせて、盗み聞きしている少女・ユキと一緒に二人の会話に引き込まれる。スタートからがっちり心を掴まれた。
その引き込んでくれたのがメインの二人・佐々波と雨坂。この二人、どちらも恐らく二十代後半のいい大人な男なのに会話がなんだが可愛い。内容は論理的で言葉使いも普通なのに、その言い合う様子は子供っぽい。口喧嘩もどこか楽しそう。もちろん読んでいるこちらも楽しくなる。
また、二人の事件解決法も一風変わっている。
幽霊が見えて会話もできる佐々波が幽霊の言葉を聞いて、それを元に小説家の雨坂が誰もが納得できるようにストーリーを組み立てていく。その推理するのではなく話を作るという発想に感心し、雨坂のストーリーの説得力に感嘆する。
それと、幽霊にまつわる話だからなのか作者の作風か、前作『サクラダリセット』と共通する儚さと透明感が少なからず感じられたところも良かった。
作者買いだが期待通り、いや期待以上に面白かった。