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「φの方石 ―白幽堂魔石奇譚―」新田周右(メディアワークス文庫)

φの方石 ―白幽堂魔石奇譚― (メディアワークス文庫)
φの方石 ―白幽堂魔石奇譚― (メディアワークス文庫)

方石――それは様々な服飾品に変じることのできる立方体。この技術のメッカである神与島で、アトリエ・白幽堂を営む白堂瑛介は17歳の若き方石職人。東京からやってきた下宿人の少女・黒須宵呼とともに暮らしている。
瑛介は方石修繕の傍ら人々を惑わす石、魔石の蒐集をし、その身請け人となっていた。そんなある日舞い込んだ方石窃盗事件の調査依頼。そこには宵呼を巻き込んだ驚くべき真実が隠されていた――。
第21回電撃小説大賞“大賞”受賞作。異才の方石職人が綴る、現代幻想奇譚。


絵柄が動く着物や音の鳴るTシャツ、完全防寒が出来る防寒具、身体能力を高める制服や靴など、魔法のような効果を持つ服飾品に転じる立方体「方石」。その方石とその歴史と技術を教える珀耀教院に集う若者たちを中心にした物語。
これは新しい。
ワンアクションで着られる魔法の服というだけならいくらでもあるだろうが、それをSFにもファンタジーにもせず日本の伝統工芸にしてしまうとは。おかげで話に歴史的人物(主に江戸時代)が絡んできて、現代幻想奇譚というフレーズにピッタリの雰囲気になっている。
話としては少々重めの愛憎劇。方石に魅せられたり、方石に人生を狂わされた人達の複雑に絡んでいく。常に方石に絡めて進めていく話の作り方が上手く、徐々に狂気の色を濃くしていく展開に引き込まれる。
また、主人公の不器用な優しさが心地よかったり、終盤のどんでん返しに驚かされたりと、キャラクターストーリー共に良く面白かった。
しかし、何故メディアワークス文庫だったのか。
魔法のような効果のある“服飾品”という明らかに絵的に映える設定で、15〜17歳というライトノベルらしいメインの登場人物。おまけにバトルもあり。電撃文庫で出さない理由が見当たらない。絵が無いことで大分損をしている。恐らく出版部数的にも損している。
愛憎劇だったから? もっとドロドロとしたライトノベルなんていくらでもある。「ひとつ海のパラスアテナ」と両方大賞を取らせたかった? あちらも結構血生臭かったから、本作がMW文庫の理由にはならないな。うーん、分からん。
方石の設定をいかに思い付いたのかが最大のミステリーという紹介文があったが、それより本作をメディアワークス文庫で出した判断が最大のミステリーだ。