いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「レッドスワンの絶命」綾崎隼(アスキー・メディアワークス)

レッドスワンの絶命
レッドスワンの絶命

私立赤羽高等学校サッカー部『レッドスワン』。九度の全国大会出場経験を持つ新潟屈指の名門は、不運なアクシデントが続き崩壊の危機に瀕していた。試合中の負傷によって選手生命を断たれた少年、高槻優雅は、為す術なくその惨状を見届けるのみだった。
しかし、チームが廃部寸前に追い込まれたその時、救世主が現れる。新しい指揮官として就任したのは、異例とも言える女性監督、舞原世怜奈。彼女は優雅をパートナーに選ぶと、古臭く凝り固まってしまった名門の意識を根底から変えていく。
どんなチームよりも“知性”を使って勝利を目指す。新監督が掲げた方針を胸に。
絶命の運命を覆すため、少年たちの最後の闘いが今、幕を開ける。


怪我で選手生命を絶たれた天才FW高槻優雅の視点で、古豪サッカー部の挫折と復活を描く青春小説。
語り部である優雅がその生い立ちゆえに病的に嫉妬心や執着心がないので、物語の雰囲気は体育会系の部活ものとは思えないほど静か。そんな枯れた優雅の心に火を灯す物語でもある。
と、基本は間違いなく青春小説なのだけど、そこはあらすじでサッカー(と怪我)のことばかり話題にする作者が書いたサッカー小説。良くも悪く?もサッカー愛が溢れていた。
新任女性監督・舞原世怜奈の言葉と行動で、古い体育会系の体質、今の高校サッカーが抱える歪な構造、選手をアイドル化して何でもドラマに仕立てるマスゴミを、次々と一刀両断。サッカーファンなら一度は思ったことあるような批判を、盛大にdisってくれているのが凄く気持ちいい。
それと、試合描写にもこだわりを感じた。
フィールドにいる選手の視線の動きや心理状態に言及して戦術や戦況を伝える書き方は、サッカーを愛してやまない(そして数年に一度大怪我をする)作者ならでは。
また、例のごとく他作品と共通の世界観なのだけど、舞原世怜奈のキャラクターには驚いた。
舞原の若者で家の力を躊躇なく存分に使う人もいるんだ。これまでは旧家舞原を疎んでいる人物しかいなかった為に、舞原家には強大な“敵”というイメージしかないので、多額の寄付がよりダーティーな印象になってるw
これまでの作品のような謎や涙はなく、思いきって趣味に走った感があるので、サッカーに興味がない人がどこまで楽しめるかは未知数だけど、一サッカーファンとしては試合もそれ以外もサッカーを楽しめた一冊。