いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「晴追町には、ひまりさんがいる。 はじまりの春は犬を連れた人妻と」野村美月(講談社タイガ)

晴追町には、ひまりさんがいる。 はじまりの春は犬を連れた人妻と (講談社タイガ)
晴追町には、ひまりさんがいる。 はじまりの春は犬を連れた人妻と (講談社タイガ)

心に傷を抱えた大学生の春近は、眠れない冬の日の深夜、公園に散歩に出かけた。「二月三日は、『不眠の日』です」。そこで彼に話しかけたのは、ひまわりのような笑顔を浮かべる、人妻のひまりさんだった。もふもふの白い毛並みのサモエド犬・有海さんを連れた彼女とともに、晴追町に起こる不思議な謎と、優しい人々と触れあううちに、春近はどんどんひまりさんに惹かれていき……。


二年になって大学近くの町に引っ越してきた主人公・春近と彼が恋する人妻・ひまりさんの交流を中心に、その町で起こる身近な人たちの大人の恋愛模様が描かれる。(大学生を大人とするのは微妙なところではあるが)


相手が人妻なので叶わぬ恋の切ない話なのかと思ったら、予想外にのほほんとしたほっこりする話が出てきた。
いつも明るくて笑顔なひまりさんの人柄と、モフモフな白毛で周囲を和ます有海さんが作り出す雰囲気がひだまりのよう。そこに人が良くてお節介な春近の行動力が加わって、どの話も問題ありな恋愛を扱っているとは思えないほど、明るい空気に満ちている。
一方で、登場人物たちは業が深いというか闇が深いというか。
好きになる人が人妻ばかりな春近だけでなく、お年寄りしか愛せない女子大生や「好き」が怖い先輩の彼女、そして犬が旦那というひまりさん。みんな心の傷は浅くない様に思える。でもそんな人たちが、少しだけ救われたり許されたりする話だからより温かく感じるのだろう。心の傷は誰にでもあるものだし、それを全面的に肯定されるのはどこか胡散くさい。少しだけだから共感できて心地いい。
心が温かくなるまさしく“いい話”だった。