いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「アサシンズプライド 暗殺教師と無能才女」天城ケイ(富士見ファンタジア文庫)

アサシンズプライド 暗殺教師と無能才女 (ファンタジア文庫)
アサシンズプライド 暗殺教師と無能才女 (ファンタジア文庫)

「絶望を知らないまま逝かせることが――暗殺者の慈悲だ」
マナという能力を持つ貴族が、人類を守る責務を負う世界。能力者の養成校に通う貴族でありながら、マナを持たない特異な少女メリダ=アンジェル。彼女の才能を見出すため、家庭教師としてクーファ=ヴァンピールが派遣される。『彼女に才なき場合、暗殺する』という任務を背負い――。能力が全ての社会、報われぬ努力を続けるメリダに、クーファは残酷な決断を下そうとするのだが……。「オレに命を預けてみませんか」暗殺者でもなく教師でもない、暗殺教師の矜持にかけて、少女の価値を世界に示せ!
第28回ファンタジア大賞<大賞>受賞作。

俺TUEEE系主人公の教官が落ちこぼれなヒロインを育てる話。このタイプのシチュエーション好きだなあ、ファンタジア。



面白くなる要素はいくつもある。でも完成度は低い。実に新人賞らしい作品。
家庭教師の本業が暗殺者だったり良家のお嬢様だけど落ちこぼれだったり設定そのものに目新しさはないものの、その組み合わせ方が巧み。中でも二人の関係が持つ悲劇性が物語をドラマチックにしている。
また、キャラクターの表現も上手い。健気で頑張り屋な愛され系ヒロインは文句なしで可愛らしいし、クールなようで意外と激情タイムな主人公のギャップもいい。
そして盛り上げるところはしっかり盛り上げられる力量。逆転劇ありサプライズあり師弟の決定づけるドラマ性もありのクライマックスのシーンは見事だった。
但し、その要所のシーンへの繋ぎが、特にその行動に至る理由付け・動機付けが下手。
主人公が命令に背いてお嬢様を助けると決意するシーンは、この物語の一番大事なところだと思うのだけど、彼を動かしたものがなんなのか伝わってこない。行動に必然性がないと感情移入は難しい。
新人賞作品ではよく感じることだけど、魅せたい/書きたいシーン以外のところをもっと大事にしてほしい。他が良いだけに勿体ない。




しかし完成度型ではなく、素材型で大賞って珍しい。……金賞以下の作品にはちょっと手を出しにくくなるね(^^;
まあ毎度銀賞に良作が多い電撃小説大賞みたいなところもあるけど、あそこは応募数が違うから。