いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「暁のイーリス」内堀優一(ノベルゼロ)

暁のイーリス (Novel 0)
暁のイーリス (Novel 0)

幼少期に「誰よりも速く駆ける」能力を与えられた飛脚の熊八。江戸を戦火から救うべく天の声に導かれ、坂本龍馬らと出会い、激動の幕末日本を駆け抜けていく。最速の男と偉人たちが交錯する疾走型エンタメ!


幼少期の大火事の時に神の声「天命」が聞こえるようになって、同時に誰にも負けない俊足を手に入れた熊八が大人になり、坂本龍馬と出会ったことから物語が始まる。
熊八や他の町人はともかく志士たちは実在の人物で、史実もちゃんと追っているので、幕末の歴史小説と称しても問題ない。とは思うのだが、本当にいいのか?
ドラマでも小説でも幕末の話で坂本龍馬が出てくる物語は数あれど、ここまで情けなくて頼りないネガティブ思考の坂本龍馬のいただろうか。
龍馬だけじゃない。その他の志士たちも数多くの物語で作られてきたイメージからかけ離れた人物像で描かれている。そのギャップがとても面白い。
中でも印象が強いのが西郷。狡猾で残忍、古狐のような人物でとても人に慕われそうな人物ではない。龍馬を疑惑の目で睨む様子は読者(傍観者)なのに金○が縮み上がりそう。
また、疾走型エンタメの名に相応しいスピーディな展開も魅力。サクサク読めるので500ページ弱のボリュームを感じさせない。
ただ、その展開の為には仕方ないのか天命に頼りすぎというか、天命の安売りをしているように感じるのが残念……と思いながらあとがきを読んだら、元は『幕末! 天命投げ売りのクマさん』というタイトルだったのか。そっちのタイトルなら天命の安売りも納得して読めたのに。
それはともかく、歴史小説・時代小説を読まない人でも楽しめるエンタメ小説に仕上がっていて、とても楽しい読書時間だった。