いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「神さまは五線譜の隙間に」瀬那和章(メディアワークス文庫)

神さまは五線譜の隙間に (メディアワークス文庫)
神さまは五線譜の隙間に (メディアワークス文庫)

念願かなって、町の小さな調律事務所に就職した幹太は、業界内で「エスピー調律師」と噂される時子の助手として働くことに。シンプルな黒スーツに鋭い目つき、無愛想な態度――彼女の醸し出す雰囲気に臆する幹太だが、その天才的な手腕と真摯な仕事ぶりに尊敬の念を抱き始める。
依頼人が望む「音」を作るために奮闘し、ときにピアノと音に隠された謎を解き明かしていく時子たち。調律が終わり、ピアノに神さまがおりた瞬間、様々な依頼人の心に温かい奇跡が訪れる――。

えー。
これだけラブの気配を漂わせておいて、こんな何にもないラストなの? 
作者がMW文庫で出した二作が恋愛系だったのと(三作目は未読)、直前に読んだベタ甘な作品の余韻が残っていたのもあって、そういうイメージで読み始めた自分が悪いと言えば悪いんだけどさ……
いや、お仕事小説として、ハートウォーミングストーリーとしては申し分のない内容だったんだけどね。
芸術の分野に携わる仕事なのに、その性質上表舞台には一切出てこない調律師という仕事。それが如何に技術と感性の両方が必要かということがよく分かる内容で、とても丁寧な描写なので仕事の大変さと遣り甲斐も感じ取ることが出来る。
また、彼ら(主に先輩時子)の技術と気遣いが、芸術家肌で気難しいピアニスト達の心を溶かしていくストーリーは心温まるものだった。ラストもお仕事小説としては悪くない終わりだとは思う。
でも、やっぱり恋愛模様がね。
所長は散々ひやかしていたし、幹太本人も恋かどうか確かめるって言ってたのに、答えを先延ばしだけで終わるのはなんだかなあ。
いい話なのは間違いないけど、最後はモヤッとして終わった。