いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「86―エイティシックス―」安里アサト(電撃文庫)

86―エイティシックス― (電撃文庫)
86―エイティシックス― (電撃文庫)

サンマグノリア共和国。そこは日々、隣国である「帝国」の無人兵器《レギオン》による侵略を受けていた。しかしその攻撃に対して、共和国側も同型兵器の開発に成功し、辛うじて犠牲を出すことなく、その脅威を退けていたのだった。
そう――表向きは。
本当は誰も死んでいないわけではなかった。共和国全85区画の外。《存在しない“第86区”》。そこでは「エイティシックス」の烙印を押された少年少女たちが日夜《有人の無人機》として戦い続けていた――。
死地へ向かう若者たちを率いる少年・シンと、遙か後方から、特殊通信で彼らの指揮を執る“指揮管制官”となった少女・レーナ。二人の激しくも悲しい戦いと、別れの物語が始まる――!
第23回電撃小説大賞《大賞》の栄冠に輝いた傑作、堂々発進!

まごうことなき“大賞”作品だった。
いやね、電撃小説大賞は例年、銀賞や金賞の方が良いと感じることの多いので。(今年の場合は金、銀賞は来月刊行だが)。大賞らしい大賞は作品のタイプも似ている『エスケヱプ・スピヰド』(2011年)以来か。衝撃度、これは凄いのが出てきたなと思ったのは『ミミズクと夜の王』(2006年)以来。


ロボットアクションにボーイミーツガールに銀髪美少女、好きなものをつぎ込みましたと言わんばかりのラノベらしいエンタメ性。それでいて詰め込みを感じさせないばかりか物語にグイグイ引き込んでくる完成度の高さとストーリー性。どちらも申し分なし。
それに、軍関係やロボ関係で普段見慣れない漢字が多いので若干の読み難さはあるものの、それを補って余りある勢いと緊張感を兼ね備えたアクションシーンも読み応え十分。
そして、個人的にライトノベルで最も大事なものだと思っている「成長」というキーワードもしっかり入っている。理不尽に理不尽を重ねた世界で生き抜く少年達の気高さ。彼らに触れることで生じる一人の少女の変化。この二つがこの物語で最も感化された部分。それもこれも昨今のラノベでは敬遠されがちな、読んでいて不快にになるほどの卑劣な差別行為=人の弱さ、醜さを隠すことなく書ききっているからだろう。そういう意味では“ライト”ノベルらしくはないかも。
また、新人賞作品として一つの物語として完結しているのが好印象。
……と、書こうとしたら、え? これ続くの? これ以上のラストシーンが想像できないのだけど。
その後だと別ジャンルになりそうだから、七章と終章の間か連邦編かってとこかな? これだけ綺麗に終わっていると期待より不安の方が大きいが果たして。