いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「オリンポスの郵便ポスト」藻野多摩夫(電撃文庫)

オリンポスの郵便ポスト (電撃文庫)
オリンポスの郵便ポスト (電撃文庫)

火星へ人類が本格的な入植を始めてから二百年。この星でいつからか言い伝えられている、ある都市伝説があった。
オリンポスの郵便ポスト。太陽系最大の火山、オリンポス山の天辺にあるというその郵便ポストに投函された手紙は、神様がどこへでも、誰にでも届けてくれるという。――そう、たとえ天国へでも。
度重なる災害と内戦によって都市が寸断され、赤土に覆われたこの星で長距離郵便配達員として働く少女・エリスは、機械の身体を持つ人造人類・クロをオリンポスの郵便ポストまで届ける仕事を依頼される。火星で最も天国に近い場所と呼ばれるその地を目指し、8,635kmに及ぶ二人の長い旅路が始まる――。

第23回電撃小説大賞《選考委員奨励賞》受賞作



荒野をひたすら行く少女と旧式ロボットの冒険譚。
ディストピアでSFでおっさんで、両親を探す少女と届くはずのない手紙という泣ける要素まである。ロマンチックかつセンチメンタルな好きそうな要素がこれでもかと詰まっていたので、ワクワクしながら読み始めた。
……のだけど、あれ? なんだろうこのノリきれない感じ。と思っている間に終わった。
別に読み難さはない。ラノベとしては改行が少なめだが、常々ラノベの多すぎる改行は鬱陶しいと思っている身としてはむしろ丁度いいくらい。
但し説明文が多く、旅する二人の心理描写が少ないのは気になる。
孤独な少女に死に場所を探すロボットに届かない手紙。どう考えても泣かせる方向に持っていくのが正解なラインナップなのに、心理描写を疎かにし過ぎ。というよりは設定説明と状況説明に追われてそこまで手が回らなかったというのが実情か。要するに説明下手。その最たる例がエリスの手紙。両親に宛てた手紙に両親が当然知っていることをわざわざ書くのはおかしいでしょう。
プロットは文句なし。しかしそれを十全に表すだけの表現力がなかった。新人賞らしいと言えばそれまでだけど、物語の骨格が本当に良かっただけにとてもおしい作品だった。ちゃんと泣かせる表現力があれば、電撃小説大賞の傾向からして金賞銀賞作より上を狙えただろう。