いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「京都伏見のあやかし甘味帖 おねだり狐との町家暮らし」柏てん(宝島社文庫)

京都伏見のあやかし甘味帖 おねだり狐との町屋暮らし (宝島社文庫)
京都伏見のあやかし甘味帖 おねだり狐との町屋暮らし (宝島社文庫)

ワーカホリックな29歳、れんげ。会社からの唐突な退職勧告を受け帰宅すると、結婚予定の彼氏と見知らぬ女!? 「俺がいなくても、れんげは生きていけるだろ?」。そんなことあるか、ボケ!! 傷心のれんげは旅立つ、超メジャーだが未踏の地、京都へと。そこで出会ったのは、おっとり系大学生男子とおしゃべりな黒狐。黒狐曰く「れんげの願いを叶えて、徳を積むのです!」。スルーしたものの、次々と怪異に巻き込まれ……。あやかしと老舗甘味を巡る、不思議な物語、開幕です!

会社に切られ彼氏に捨てられた主人公・れんげは激安民泊で京都傷心旅行へ。そこで出会う、和菓子好き草食系大学生・虎太郎と他人には見えないあやかしたちとの交流を描く物語。
れんげは民泊先を拠点に旅行者らしく(理由は旅行者らしくないものばかりだが)各地へ足を延ばす。そして厄介の種を拾ってくる。虎太郎は大好きな和菓子を食べる為に京都内を練り歩く。
この作品は「歩く」がミソだと思う。
どの話でも目的の場所、店に行くまでの道中の描写がしっかりされているので、古都らしい町並みに新旧入り混じった風景などの京都でイメージする情景だけでなく、簡単に見つけられない小路や鳥居が刺さった建物のように実際に歩いてみないと分からない細かなところが見えてくるのが一番の特長。れんげや虎太郎と一緒に知らない道を歩いているワクワク感がある。
それに虎太郎編ではその後に和菓子の事細かな食レポがあり、刺さる人には美味しそうで羨ましく感じるだろう。自分は甘味、特に和菓子は興味ゼロなので刺さらなかったが。折角れんげが酒好きだったから、もっとそっちに寄ってくれたら食いついたんだだけど。
ストーリーはれんげがあやかしたちに振り回されているがメインで、キレるれんげに気ままなあやかしたちとで全体的に忙しない印象。傷心で余裕のないれんげにはこのくらい忙しい方が良かったんだろう。それでも虎太郎との交流は、もう少しあってもよかったと思うけれど。
旅行などでは味わえない京都の街が堪能できて満足な一冊。