これは石川布団という作家と、人語を解す「先生」と呼ばれる不思議な猫とがつむぎ合う苦悩と歓喜の日々。企画のボツ、原稿へのダメ出し、打ち切り、他社への持ち込みetc...。布団はさまざまな挫折と障害に直面しながら、それでも小説を書き続ける。ときに読者に励まされ、ときに仲間に叱咤され、素直に、愚直に、丁寧に、ときにくじけて「先生」に優しく厳しく叱咤激励されながら――。売れないライトノベル作家と「先生」とが紡ぎ合う、己が望む「何か」にまだ辿り着かぬ人たちへのエール。優しく、そして暖かな執筆譚。
コアなファンには絶大な人気があって売り上げは残念だったり、著作のタイトルや内容がどこかで見たことあるものだったり……これは石川先生ご本人のことですね。予備知識ゼロで読み始めたから途中で気付いてびっくりした。いや、本名・石川博の時点で気付けよ自分。
売れないライトノベル作家が喋れる猫「先生」に励まされながら書き続ける自伝的ライトじゃないノベル。
出てくるレーベルがピコピコ文庫やぺろぺろ文庫など実際とは似ても似つかない名前ながら、エピソードだったり、前述のとおりタイトルや内容が現実のものに似ていたりして、大体どこのレーベルか分かってしまう。ということは、どこの出版社がいい加減でどこの出版社が阿漕なのか、ラノベ業界の闇が透けて見えてしまう、ある意味恐ろしい作品と言えなくもない。ああ、あそこはやっぱりね。イメージ悪いもんな。……ええ、分かってますよ。あくまでフィクションだという事は。
それで、主人公の石川布団氏はというと、
リアルの石川先生は、全ての作品を読んだわけではないけれど、自分が読んだ作品ではどれも感性が独特なので、泰然としているか突飛な人かどちらかの人物像を想像していたのに、石川布団先生はもの凄く普通の人。良いことがあれば浮かれ、悪いことがあれば沈む、当たり前の喜怒哀楽を持ったちょっと(いや大分か?)頼りない大人しめの三十路男性。
でもその親しみやすさが、この物語の真骨頂。理解しやすいからこそ、苦しさを一緒に味わい、喜びを一緒に噛みしめ、そして先生の死に一緒に涙する。だからこそ「先生」の普段の言葉も、最期に残された言葉も胸に響く。猫の「先生」ここまで言われちゃ頑張らないわけにはいかないでしょう。
頑張る気力を貰える素晴らしい一冊だった。