いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「本と鍵の季節」米澤穂信(集英社)

堀川次郎は高校二年の図書委員。利用者のほとんどいない放課後の図書室で、同じく図書委員の松倉詩門(しもん)と当番を務めている。背が高く顔もいい松倉は目立つ存在で、快活でよく笑う一方、ほどよく皮肉屋ないいやつだ。
そんなある日、図書委員を引退した先輩女子が訪ねてきた。亡くなった祖父が遺した開かずの金庫、その鍵の番号を探り当ててほしいというのだが……。
図書室に持ち込まれる謎に、男子高校生ふたりが挑む全六編。爽やかでほんのりビターな米澤穂信の図書室ミステリ、開幕!


米澤作品で高校生というだけで大好物の予感しかしないのに、そこに本と図書館の要素が加わったら面白くないはずがない。夢中で読んで気付いたら終わっていた。
読み始めてすぐは、高校で図書室なら古典部シリーズの奉太郎と里志でやってもいいのでは?と思っていたのだが、それは大きな誤りだった。
まっすぐ育った堀川と疑り深く育った松倉。育ってきた環境の違いから、対照的な価値観を持つ二人。会うのは図書委員の当番日の週一。話せば馬が合って会話が弾むが、わざわざ別のクラスに行って話すほど仲良くもない。そんな価値観の差と微妙な距離感が重要なファクターになっているからだ。相手を知ることによって近くなるような、違う人間として認識して離れていくような、その揺らぎに高校生らしい若さと、米澤作品らしい苦みが感じられる。
そんな二人が読み解くのが、持ち込まれてくる知人の問題や偶然出くわす日常の謎
二人のどちらかが探偵役と聞き役ではなく、お互いの間違いを指摘しあいながら真実に近づいていく推理方法が新鮮で面白く、全六話どれも感心しきり。ただ、高校生が関わるにしては少し重い事件だなと思っていたら、、、そういうことか! どの事件も関係ないようでいて、最後の事件に間接的、精神的に繋がる綺麗なラインに感嘆する。
期待通りの面白さで充実の読書時間でした。シリーズ化ができそうな作品ではあるけれど、あのラストに明確な答えが出てしまうのは何か違う気もする。