いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「ノーブルチルドレンの初恋」綾崎隼(メディアワークス文庫)

美波高校の演劇部、舞原吐季と琴弾麗羅のもとに、映画出演の打診が舞い込む。依頼者は映画研究部を退部し、同好会を立ち上げた笹森瑛斗と長井涼介。二人は「高校生映画コンクール」で受賞することで、かつての部員たちを見返そうと躍起になっていた。
頼まれてもいないのに協力を申し出た千桜緑葉の命令で、嫌々ながら参加することになった吐季だったが、映画制作は一筋縄ではいかず……。
『残酷』な運命に『告別』した高貴な子どもたちが織りなす『初恋』の物語。


仮初の演劇部とは知らず、吐季たちに自主製作映画の出演を頼みに来てしまった映画同好会。もちろんけんもほろろに断られるが、その部屋に居た彼女は――といった感じに始まるノーブルチルドレンシリーズ久々の新作。他の生徒から見た演劇部と保健部のメンバーが描かれる、追憶(短編集)に続いての番外編。

語り部の笹森が、自分はまだ何もしていないのに講釈を垂れて他人を批判するかなり痛い子で、その若気の至り感たっぷりの言動だけでも十分青春を感じられる話だったのだけど、これはノーブルチルドレン。やっぱり彼女が出てきてからが本番。
久々でも緑葉ワールド全開だった。
出てきただけで空気が一気に陰から陽へ切り替わる華やかさに、周り全てを引っ張って動かす推進力。突拍子のない言い分なのに結果的には物事が好転する謎のバランス感覚。あのパワフルな様子を読んでいるだけで、元気がもらえる気がする。まあ、近くにいたら鬱陶しいんだろうけど(苦笑)
そんな彼女の良さが全て詰まっていたのがラストシーン。誠実さも可愛さも温かさも感じる笑顔になれる“フラれ”シーンは他では読めないだろう。
ちなみに吐季は……寝てただけだな、本気で。
相方の麗羅の方が何倍も存在感があった。映画の撮影からコンクールの結果発表までの長丁場の中で、変化する彼の態度や立ち位置で、当時の状況が少し垣間見えて懐かしい。
久しぶりに高校生の彼らに出会えて嬉しい作品だった。