いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「聞こえない君の歌声を、ぼくだけが知っている。」松山剛(メディアワークス文庫)

聞こえない君の歌声を、僕だけが知っている。 (メディアワークス文庫)
聞こえない君の歌声を、僕だけが知っている。 (メディアワークス文庫)

動画サイト上に投稿された「歌声だけがない歌う少女」の動画。様々な憶測を呼び、いつしか彼女は「無声少女」と呼ばれ、社会現象となった。
ある日、大学生の青年・永瀬は、突然なぜか世界でただ一人「無声少女」の歌声が聞こえるようになってしまう。彼は彼女の歌詞をヒントに「無声少女」を探そうとする。
動画の少女は誰……? 彼女の歌は、何のために? 目の前に現れた「サクヤ」という女の子は何者――?
全ての答え。それは『愛』。これは切ない『愛』の物語。

人気動画「無声少女」。無音のはずのその動画の歌声が何故か聞こえてしまった主人公・英治が、その歌詞から「無声少女」と自分にだけ聞こえる理由を探る、SF(少し不思議)ボーイミーツガール。
そうきたか。一人にだけ聞こえる音声の時点で若干SF感はあったけど、この方面は予想してなかった。そしてそのSFを涙に繋げてくるのが本当に上手い。今回も泣かされた。
「あなたが生まれて来てくれただけで幸せ」というありきたりだけど大切な言葉を、言ってくれる大人がいなかった子供たちの話。SF要素が出て来てからは、そう思って読んでいた。
でも、そうだよね。いくら言葉でそう伝えられても子供本人が納得できなければ意味がないよね。そもそも死別だったりやむを得ない離婚だったり、ここに出てくる親達は子供にそれを全然言いそうにない親達ではなかったや。特に最後に出てくる父親は。
そのありきたりな言葉に、命を吹き込み説得力を持たされくれる。そんな素敵な終章とエピローグに涙が止まらなかった。
ただ、綺麗な物語だっただけに、話が常識やそれまでの流れから急に外れて「ん?」と思うことが多いのが玉に瑕。ストーリーや会話というより、設定やプロット段階の詰めの甘さみたいなものが散見される。救いはあるがシビアな終わりに対して、物事に対する解釈がご都合主義のように感じられるのがもったいない。