いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「誰がために鐘を鳴らす」山本幸久(角川文庫)

来年には廃校、共学なのに女子がゼロ、の高校に通う錫之助。担任のダイブツに頼まれて、同級生の土屋、播須、美馬と音楽室を片付けていたら、昔使われていたハンドベルを見つける。女子高との合同練習目当てに4人はハンドベル部を結成することに。チームワークはバラバラ、経験もナシ。だが徐々に演奏の魅力に目覚めていく。男子高校生と独身教師が奏でる、笑えて泣ける青春物語。書き下ろし短編「まつげに積もる雪」も収録。


廃校寸前に不純な動機からできた男子だけのハンドベル部の奮闘と成長を描く青春小説。
前半分の200ページ超は正直言って微妙だった。
演奏はすぐ上手くなるはずもなく、女子高との合同練習という当初の目的は影も形もなく、彼らが何をモチベーションにしてハンドベルを続けているのか、理解できなかった。それに主人公である錫之助は愚痴っぽく(LINEスタンプ一つにイライラしすぎ)、ハンドベル男子部員はみんな華がなく(ぶっちゃけ全員モブっぽい)、不愉快なヤンキーには屈するしで、読んでいて楽しいところがあまりない。
ところが、キャリアウーマンでハンドベル部OGの霧賀さんが本格的に彼らに絡みだし、部員の播須の妹・一恵が出てきたぐらいからグッと面白くなる。
恋愛ばかりが青春ではないが、やはり青春小説にヒロインがいないのは寂しいというのと、二人ともキャラクター単体で魅力がある。特に霧賀さんはバイタリティ溢れる美人で、彼女の学生時代の思い出には現役の少年たちよりも青春感があって、まるで主人公のよう。巻末の解説を読んだら、霧賀さんは作者の他作品の主人公だそうで。納得。
また、後半になると錫之助の実家の金属加工工場や家族が話に絡んでくるのも大きい。
将来への不安という青春小説のど真ん中のテーマが出てくるのと、錫之助の親父が職人気質でお仕事小説としての楽しみが出てくる。そこに一恵が絡んでくるのがまた面白い。幸せな未来が描ける最後の演奏会と書き下ろし短編で読後感も良かった。
想像していた部活ものの少年たちの青春という感じではなかったが、悩める少年少女の物語で青春を堪能できた。面白かった。