いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「今日は心のおそうじ日和 素直じゃない小説家と自信がない私」成田名璃子(メディアワークス文庫)

突然終わった結婚生活。バツイチか──と嘆く余裕もない私。職務経験もろくにないが、家事だけは好きだった。
そんな私に住み込み家政婦の仕事が舞い込む。相手は高名な小説家。そして整った顔立ちとは裏腹に、ものすごく気難しい人だった。行き場のない私と、ふれ合いを拒む小説家。最初はぎこちなかった関係も、家事が魔法のように変えていく。彼と心を通わせて行くうちに、いつしか──。
なにげない毎日が奇跡になる物語──本を閉じた後、爽やかな風を感じてください。


夫の不倫で離婚した専業主婦が、嫁の死後書けなくなった大御所作家の家政婦を始めるところから物語が始まる。実家には居場所がなく、夫に虐げられて過ごしてきた為「家事しかできない」と自分を卑下する主人公が、自分の居場所を見つけ、遅遅とした歩みで自信を取り戻していく。

家事の重要性、仕事としての価値を再認識させてくれる話だった。
家事をしている本人が家事自体は楽しんでやっているというのもあるが、家事をする人が「大変だ。重労働だ」と訴えるのではなく、周りの人間がそれは大変な仕事で尊い仕事だと、自信のない主人公に言い聞かせる形になっているので、言葉に説得力がある。
また、あらすじから男やもめの作家といい雰囲気になっていく話かと思ったら、全く予想外の方向に主人公の未来が好転していった点も面白かった。こうやって予想の上を行かれるのが読書の醍醐味の一つだ。後半はその楽しさにプラスして、主人公が自信を付けてからの思い切りの良さや、元夫への啖呵が爽快。
ただ、作家の飼い猫と主人公の小3の娘を便利に使い過ぎているところが引っかかる。どちらも大人たちの機微が分かり過ぎていて、猫/子供らしくなくてちょっと怖い。
それでも意外なストーリー展開と、家事をする人間としては「そうだそうだ」と同調したくなる内容で、二重に楽しめる一冊だった。