いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「すべては装丁内」木緒なち(LINE文庫)

「何なの、あのドSデザイナー!」
学央館書房の新人編集者・甲府可能子は憤っていた。
編集長から紹介を受けた装丁デザイナー、烏口曲に企画していた詩集の装丁を即刻で「やらない」と断られたからだ。
曰く、可能子の装丁に対する考えの甘さが原因らしいが……実はこの烏口、理路整然に上から目線で仕事を選ぶ、業界内でも有名なドS&偏屈男だった! 果たして可能子は無事装丁の依頼を引き受けてもらい、本を刊行できるのか?
装丁の奥深い世界、そして今を働くすべての人に勇気をお届けする、お仕事エンターテイメント!


本職のデザイナーが装丁の仕事の何たるかを教える、お仕事小説。
とっても少女漫画テイスト。
浮き沈みは激しいが基本元気で嫌味がないタイプの女主人公。仕事が出来る皮肉屋イケメン、毒舌の代わりに防御力は極めて低いお相手。どちらもフォローできる“おねえ”なアシスタント。
というキャラ配置の時点でかなり少女漫画っぽいが、中身はそれ以上。演出過剰気味の各種イベントや、主人公がときめきを感じるシチュエーションは、まさしく王道少女漫画のそれ。
初めての木緒なち作品だったのだけど、予想外の作風でビックリ。『ぼくたちのリメイク』もこんな感じだったりするのかな。
という個人的には好きだが、好き嫌いが分かれそうな話の展開と違って、装丁の仕事を描くお仕事小説としてはガチ。
仕事内容とその流れがわかるのはもちろん、軽く見られがちなカバーデザインの仕事への意見や、仕事で気を遣うところなど、本職ならではの内容が興味深い。特に実際のデザインの話、ただしっくりくるだけでは埋もれてしまう。引っかかりを作らなければ人の目には止まらない、というくだりは目から鱗だった。
起こるイベント・ハプニングがテンプレでストーリーが淡白な印象はあるものの、少女漫画好きとしても、知的好奇心を満たすお仕事小説としても楽しめた一冊。面白かった。