いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「オタクと家電はつかいよう ミヤタ電器店の事件簿」田中静人(宝島社文庫)

「うちの社長は笑いません。ですが、お客さまの笑顔のために努力しています」という求人広告に惹かれ、「ミヤタ電器店」に転職した森野美優。人の気持ちは読めないが、家電に詳しい店長の宮田とともに「なんでも対応」をポリシーに、家電トラブルに隠された人々の想いや悩みを次々と解き明かしていく。一風変わった仕事にやりがいを感じる美優だったが、彼女の周辺で奇妙な事が起き始め……。


地元の電器店に転職した主人公が、家電オタクな店長と一緒にお客さんの悩みを解決していく日常ミステリ。
業務が電器屋のそれとはかけ離れているので、お仕事小説としては期待外れ。説明癖のある店長が話が途中で遮られてしまうので家電薀蓄としても微妙。その代わり、予想外といっては失礼だが、日常ミステリが面白かった。
優れた嗅覚と知識と洞察力を持った宮田店長が問題の原因(時にはトリック)を暴き、人の機微に敏感な主人公の美優が動機の面から問題を起こした理由や解決策を探っていくという分業制の探偵像が新鮮で面白い。それに人の機微に疎い宮田と、家電に詳しくない美優が、お互いを補いながら二人で一つの答えを導くいいコンビ感に、何とも言えない気持ちよさがある。
但し、最後の事件の顛末が酷い投げっぱなしなので、読後感はモヤっと。
この作品としても社会的にも、最後の事件をなあなあのまま終わらせるのはダメだ。あり得ない。
真犯人は、警察に突き出せないなら家族が精神科に連れて行かないと。必ずまたやらかす。それに犯人に間違われた女性は、同じ場所にいたはずなのにどこへ消えた? 完全に忘れ去られた上に、彼女の問題は何も解決していないのだが。
二人三脚探偵は本当に面白かっただけに、最後が本当に残念。主人公は自分の問題から立ち直れたわけではないし、最後の彼女のこともあるし、続きが出てスッキリさせてくれるといいのだが。