いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「石垣島であやかしカフェに転職しました」小椋正雪(LINE文庫)

新卒OLの東山葉月は旅行先で途方に暮れていた。勤めていた会社が、夜逃げ同然に倒産してしまったのだ。更に追い打ちをかけるかのように不思議な存在に絡まれた葉月だったが、通りかかった中年男性の室井俊郎に助けられる。彼によれば、葉月は『あちら側の住人』と意思疎通ができる『みえるひと』であるらしい。俊郎が『あちら側の住人』も顧客とするカフェを経営していると知った葉月は、その仕事を手伝うことを申し出る。
南の島を、元OLが駆ける。こちら側と、あちら側の住人を繋ぎ、時に助けられながら――


八丈島と、魔女の夏』の小椋さんがまた離島の話を書くと聞いて、とても楽しみにしていた作品は、期待通りに情景描写が美しく、優しさに溢れる物語だった。

石垣島の旅行に来たOLが、会社の倒産と不思議な出会いをきっかけに、島に居付くことになる物語。
エメラルドグリーンの海と、深い青の空。そこに映える緑の島々に、南国ならではの風土。ウッドデッキが素敵な喫茶店。美しい風景が容易に想像できる丁寧な情景描写が素晴らしい。そこに、元ブラック勤務の都会暮らしの主人公・葉月にとっては島のどんなものでも新鮮で、少しの違いに気付いて一つ一つ感動する様子が足されて、より美しいものに感じられる。
そう、この葉月さんのキャラクターが良かった。
抑圧されてきた反動なのか元来の性格なのか、おどおどしている割に好奇心旺盛で、神に妖怪に悪霊にと何でもありの“あやかし”たちに対して、驚きながらも臆せず話しかけていく度胸がある。また、困った人を見ると放っておけない性格で、危なっかしいけど好ましい人柄。
そんな彼女に引かれたのか、出会う人はこちら側の人もあちら側の人も、自分より他人を気遣ういい人優しい人ばかり(悪霊は除く)。ロック様(神)とか喋らなくて所作が可愛いからマスコットキャラみたい。筋肉だけど。
そして、そんな優しい人たちに助けられたり助けたりしながら、葉月が島での生活に馴染んでいって、たくましくなり笑顔が増えて行く様子に心が温かくなる。
青と緑が溢れる自然と主人公の頑張りに、心が洗われ優しい気持ちになれる一冊。良いものを読んだ。