いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「三途の川のおらんだ書房 迷える亡者と極楽への本棚」野村美月(文春文庫)

三途の川べりに佇む〈おらんだ書房〉では、艶やかな着物をまとった陽気な店主が「人生最後にして最上の一冊」を選んでくれるという。客は子供から老人まで生前に大きな未練を残した死者ばかり。そのひとりひとりの人生の物語に優しく寄り添い、店主は成仏へと導く本を探すが――。本好きに贈るビブリオ・ファンタジー


彼方と此方の間、三途の川の畔ある〈おらんだ書房〉を訪れる死者たちの短編連作。
死んだ後、三途の川を渡る前に一つ好きなことが出来る。もしくは思い残しや後悔を少し解消して晴れやかな気持ちで逝ける。そんな優しい世界の物語。生前が決して幸せとは言い難い死者も出るので、全てがハッピーエンドというわけではないけれど、基本的には「羨ましい」という思いで読んだ。
だって死後のロスタイムにもう一冊読めるだなんて、本好きには堪らないご褒美でしょう。第一話の読書バカな人は死に方からして、本好きとしては悪くない死に方だったりするのだが、それはそれとして、
お気に入りは、読みたい読者と描けない漫画家の思いが交錯する第五話。
「あの本が完結するまでは死ねない!」わかる。本当によくわかる。本好きにはそんなシリーズいっぱいあるから、いつになっても100%満足しては死ねないよなあ。
一方で、心無いファンの身勝手な言葉で傷付き描けなくなった漫画家の様子には少なからず自責の念が。こんなブログをやっている身としては「好き勝手書いてるだけですから気にしないでください」というのが本音なのだけど。例え負の感情であってもファンレターは熱量がないと書けないが、ネットはさして熱が無くても書けてしまって、そして簡単に届いてしまう。その怖さはいつも心に置いておかないと、と改めて思うエピソードだった。そして、死後に“最終巻”に出会えた読者(死者)たちはやっぱり羨ましい。
死後本当にこんな世界だったらいいのにと羨ましくなりつつ、店を訪れた時より晴れやかな気持ちで三途の川を渡っている死者たちに温かな気持ちになれる一冊だった。