いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「科学喫茶と夏の空蝉」福岡辰弥(富士見L文庫)

食器は化学器具、マスターの猫目緋子は白衣姿という一風変わった喫茶店『C3-Lab』。 元科学者で科学を愛する緋子の営む喫茶店だ。
ある朝、常連の冬子が夏乃佳と一緒に美しい少年を連れてくる。けれど少年は行方不明者としてニュースで見たばかりの顔だった。
戸惑う緋子に冬子は、少年が“何か”に憑依されているかもと言う。
非科学的なことを嫌う緋子の当たり前の日常は、その日から「科学的」とは少し離れていって――。
「人間でも、そうじゃなくても……全然、何も変わらないです」 科学×オカルト×猫の日常系ミステリ!

カクヨム オーバー30歳主人公コンテスト「特別賞」受賞作


全く予想外のものが出てきた。
オカルトな事件を科学的な視点で切り込む日常ミステリを想像していたら、ホラーと人情が半々くらいのオカルト小説が出てきた。ミステリはおろか科学要素もないのは流石に予想外。なんで科学喫茶だったんだろう。必然性も必要性も感じられないんだけど。作者の趣味……かな?
予想を裏切られるのは別に構わないのだけれど、これは一冊の小説としての出来がお世辞にも良いとは言い難い。
事件は店の外で起きていて、店内ではそれをダシにして、店主と常連客のあちこち脱線する取り留めのない駄弁りが展開されるのだが、あまりに話にまとまりが無くてストーリー性も薄いので、形にならなかった没案や、頭の中でこねくり回した(屁)理屈をキャラクターに語らせて、再利用や供養しているみたいに感じる。昼間お店に預けられる霊感小学生のお母さんがオカルト小説的に面白そうな職業だったので、このお母さんが所属する会社がメインの物語のスピンオフ作品なのかと、途中まで思っていたくらい。これがデビュー作のようなので違うみたいだけど。
また、後半は家族愛の話になって少しストーリー性が生まれるものの、自分と作者では人の「情」に関して感性がまるで合わなかったようで、頭に「?」が浮かぶことが多い。
感性の問題は別にしても、科学喫茶の単語に惹かれて買った身としては科学要素皆無で不完全燃焼だし、話は散らかっていてまとまりがないしで、申し訳ないが大きく期待外れの一冊だった。