いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「負けヒロインが多すぎる!」雨森たきび(ガガガ文庫)

クラスの背景である俺――温水和彦は、あるとき人気女子・八奈見杏菜が男子に振られるのを目撃する。「私をお嫁さんにするって言ったのに、ひどくないかな?」「それ、いくつの頃の話?」「4、5歳だけど」 それはノーカンだろ。これをきっかけに、陸上部の焼塩檸檬、文芸部の小鞠知花など、負け感あふれる女子たちが現れて――? 「温水君。女の子は2種類に分けられるの。幼馴染か、泥棒猫か」「なるほど、大胆な分類だ」……負けてこそ輝く彼女たちに、幸いあれ。負けヒロイン――マケインたちに絡まれる謎の青春が、ここに幕を開ける!

第15回小学館ライトノベル大賞<ガガガ賞>受賞作


美少女陽キャ幼馴染み、体育会系おバカ幼馴染み、コミュ障文系後輩。ボッチでモブな主人公の温水少年が、ふとしたきっかけで喋るようになった女子たち=負けヒロインたちの負けていく姿を見守るラブコメディ。
この作品最大の魅力はヒロインたちの残念さ。
どこか難ありというか、どちらかと言えば難の方が強いヒロインたちが人間味があってとても魅力的。そのヒロインたちが典型的な負けムーブをやらかしてしまうのを、主人公と一緒に「あちゃー(ノ∀`)」となるのが、苦笑いしつつも楽しい。
ただ、物語としては主人公の立ち位置が気になる。
巻き込まれた他人なのに慰めたり愚痴を聞いたりと、振られたヒロインたちをケアする心優しい少年で好感は持てるのだけど、どこまでいっても傍観者で裏方の位置から動かないので、恋愛模様や青春感がなくてラブコメとしては不完全燃焼、物足りなさを感じる。
それでも、コンセプトは新しく、主人公とヒロインたちの毒と優しさとネタがいいバランスで入る軽快な会話は読みやすくて面白く、新人賞作としては間違いなく良作の部類に入ると思う。