いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「コロウの空戦日記」山藤豪太(GA文庫)

「死はわたしの望むところだ。私は“死にたがり"なのだから」
あまりにも無為な戦争の、絶望的な敗勢の中で、とある事情から「死ぬため」に戦闘機乗りになった少女コロウ。配属されたのは、「死なさずの男」カノーが率いる国内随一の精鋭部隊だった。
圧倒的な戦力差で襲いくる敵爆撃機。危険を顧みない飛び方を繰り返すコロウを、仲間たちは「生」につなぎとめる。彼らの技術を吸収し、パイロットとして成長していく彼女はいつしか“大空の君"として祭り上げられるほどに――
あるべき“終わり"のために戦う戦闘機乗りたちを書き記す、空戦ファンタジー開幕!

第13回GA文庫大賞<銀賞>受賞作


自国の敗戦がほぼ決定づけられた戦争で、死ぬために戦闘機に乗る少女の物語。
生きることを諦め冷めている主人公コウロが日々付けている日記として物語が綴られていくので、感情の振れ幅が少なく戦時の日常が淡々と進んでいく。
しかし、その中で見えてくるのは他の隊員たちの、どんなに状況が厳しくても笑いを絶やさない姿。必死に生き抜こうとする姿。そして、あれこれ理由を付けてコウロに構うカノー隊長を筆頭にした男たちの姿。
死にたがり少女を何とか生にしがみつかせようと奮闘する男たちの様子が慈愛が深くて温かい。そんな彼らに感化され、次第に明るくなりお茶目な様子まで見せるようになるコウロの変化がまた温かい。
また、コウロに下されていた不可解な命令の謎、突然挿入される一年前の日記の謎など、序盤中盤の謎が後半にひとつずつ解けていくストーリーラインが綺麗で、おまけにラストの一文まで綺麗で、一つの作品としての完成度が高い。
戦闘描写の説明が丁寧で状況がわかりやすい反面、説明的すぎて小説的な盛り上がりが感じられないのが個人的には物足りなかったところだが、この辺りは好みの問題か。
諦めないことの大切さを謳う心温まる物語でとても良かった。面白かった。これが銀賞なのか。改稿でよくなったパターンの新人賞かな?