いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「スーパーカブ8」トネ・コーケン(角川スニーカー文庫)

大学生活も、怪しいサークル「セッケン」の竹千代と春目との付き合いにも慣れてきた小熊に、浮谷から突然の依頼が舞い込む。それは原種のキャンタロープ・メロンの輸送の仕事だった。大勢の人の情熱がつまったメロンを運びながら頭に浮かんだのは「仕事」とは何かということ。近いうちにやってくる社会人という称号は、小熊を否応なく社会の歯車の一つにしていく。バイクにも無数に使われている「歯車」が何なのか知りたくて、小熊はP.A.S.S.社というバイク便事務所を訪ねて……。
自分のやりたい事、自由、それから責任。全部カブが教えてくれた。カブと小熊が過ごす1億分の1の青春、ここに完結。


大学生編その2にして最終巻。終わるのか、意外だ。
お世話になったバイク便の社長・浮谷のヘルプで入った仕事で、入院時のルームメイトに再開し、かつて礼子と助けた集落へ。これまで彼女がカブに乗って結んできた縁を、様々な角度から再確認する、異性に限らない方の意味で「縁は異なもの味なもの」を体現したような物語だった。
そして、最終回に相応しい全員集合by小熊の誕生会へ。こんなに多くの人たちに出会っていたことに、彼女の為ならと集まってくれる人がこんなに居ることに大きな驚きと感動がある。唯一の肉親に逃げられ天涯孤独の彼女にとっては、普通の人が思う以上に特別な意味があるだろう。天邪鬼な彼女は絶対言葉にはしないけれど。あと、集め方に関しては竹千代先輩が便利過ぎな気がしないでもないけど(苦笑)
それもこれも小熊がカブに乗ったことが始まり。ちょっとの勇気と思い付きが行動範囲だけでなく、彼女の世界が大きく広げたんだと思うと感慨も一入。
一人の少女が大人になる、いや大人になったことに気付く物語かな。ラス前の「さよなら」に込められた子供な自分からの卒業は、1巻の終わり時点ですでに出来ていた気がするので。
気弱で垢抜けない孤独な少女が強く逞しく育つ成長譚。育ちすぎちゃった感は大いにあるけれどw、いい物語だった。