いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「君と漕ぐ5 ―ながとろ高校カヌー部の未来―」武田綾乃(新潮文庫nex)

日本代表選手となり注目を集める天才カヌー少女・恵梨香。だが大会で思いがけない事態に見舞われる。親友の舞奈は彼女を見守るが。一方、三年生になった希衣は自らの進路に悩んでいた。大学でも夢を追い続けるべきだろうか、それとも。そして迎えたインターハイ。今度こそ全国制覇の悲願は叶うのか――。感動のエピローグに熱い涙が溢れ出す、水しぶき眩しい青春小説、ついに完結。


完結編。
期待通りに少女たちの成長の集大成が詰まっていた。先輩の希衣と千帆の二人以外は他人同士でバラバラなスタートから読んでいるので、親心のような気分で読んでしまった。
まともに人付き合いが出来なかった天才・恵梨香は、初めての友達から一気に人の輪が広がって、人の世界という意味でも競技の意味でも世界に羽ばたいていった。泣いて笑って感情を素直に表に出せる魅力のある女の子な様子は、初めの頃からは考えられない姿でそこに心の成長を感じる。
中学までトッププレイヤーだった千帆は、身体能力的について行けなくなったカヌーに踏ん切りをつける苦しい道程を完遂した。彼女視点では語られないので、心中を全部知ることはできないが、時々見せる切なそうな様子と最後まで全力でやり切る姿が泣ける。
ずっと目標だった親友を追い抜いてしまい、目標を失い裏切られた気分だった希衣は、新たな目標を見つけ自分の気持ちに整理を付けて、大きく飛躍した。人として最も成長したのは希衣だったと思う。選手としての成長が遅く卑屈だった彼女が、実力では勝る後輩を精神的に引っ張っていける存在になっていたことに感動。
そして、親の離婚という失意の引っ越しから、新しく打ち込めるカヌーを見つけて、多くの友人知人とかけがえのない親友を得た舞奈。
この物語は舞奈から始まるので、彼女の成長の物語として読んでいたけれど、終わってみれば彼女が一番大人だった。
メイン視点兼4人のバランサー的な役割で、それぞれに強い個性と問題を持った ながとろ高校カヌー部が空中分解しなかったのは間違いなく舞奈のおかげ。そんな彼女が他の3人と同じ舞台同じ視点で喜べるインターハイは、これまで3人を陰から支えてきた彼女へのご褒美のようで嬉しさが込み上げる。もちろんその舞台に立てたのは舞奈の努力の賜物なのだけど。
と、四人それぞれの成長の軌跡が感じられるエピソードばかりでどれも胸を打つのだけど、涙腺に来たのは先輩二人が部を立ち上げた時から見守ってきた檜原先生が万感の思いで部員たちを見守っている姿だった。こんなんもらい泣き必至だ、ズルい。それと、読み終わった後に表紙を見るとまた泣ける。
最後の大会であるインターハイが駆け足で、後2,30ページ加筆して!という身勝手な想いはあるけれど、それぞれの成長の軌跡と決意が綴られていて最終回に相応しいエピソードで、本当に良かった。